2020年、夏。今年はいろんな形の帰省がありました。
例年より混雑を避けて帰省された方、ビデオ通話で親戚とゆっくり話された方。きっと多くの方の記憶に残るお盆休みとなったのではないでしょうか。
私は、故郷から届いた野菜セットで帰省気分を味わいました。
郷愁、今年は帰れない
こんにちは、ライターの大城です。そう、大きい城と書いて「おおしろ」。
……察しの良い方はすでにお気づきかもしれません。わたくしの苗字は、沖縄ではかなりメジャーな名前で、沖縄料理屋へ行けばすぐに地元がバレてしまうほど。
そのとおり、私のルーツは沖縄にあります。私自身の育ちは関東だったものの、親戚はみな沖縄に住んでいるため、毎年夏休みには必ず帰省をしていました。しかし祖父母もかなりの高齢となり、今年の夏は帰らないという選択をしました。
その代わりに、と言ってはなんですが、今年は我が家へ沖縄の、野菜セットを招き入れることにしたのです。
段ボールからどこか甘酸っぱいような匂いがしました。不思議と飛行機から那覇空港に降り立った瞬間の感覚を思い出させます。
小包には「沖縄県うるマルシェ」の文字が踊ります。沖縄県うるま市のうるマルシェ生産者協議会・新垣裕一さんからのお届け物でした。
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この沖縄野菜セットはうるマルシェ生産者協議会に所属している生産者さんたちの農作物の詰め合わせで、本土のスーパーではあまり見かけない「島野菜」をいろいろと楽しめるというのが魅力。
どんな島野菜が入っているかわからないわくわくを感じながら開封していきましょう。
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はじめに現れたのはおたより。そして、新聞紙。あれ、もしやこれは……?
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「あ〜、琉球新報だ!」
食材たちを包んでいた新聞紙は、私の祖父母の家でも購読している琉球新報でした。「そういえば朝食が並ぶ食卓には、必ず琉球新報が置いてあったな…」と、朝の風景を思い出しました。
南の島の野菜、ぞくぞく登場
まず出てきたのはバナナです。包みには「アップルバナナ」と書かれています。
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本土のスーパーで多く並ぶバナナよりも太く短いですね。
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到着時にはしっかり熟れていたので、早めに取り出してあげました。
お次は、ずんぐりとしたフォルムにはっきりとしたオレンジ色の謎の生物……
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……ではなくて、沖縄野菜の「モーウィ」です。ウリの仲間で冬瓜に似た食感と味をしています。剥いてみれば勝手知ったるウリですのでご安心を。
さて次に出てきたのは……
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「島らっきょう」!やった〜!
沖縄料理屋で目にすることの多い食材のひとつで、泡盛にぴったりの酒のアテですね。強烈な刺激と旨みが酒飲みの心を掴んで離さないことでも定評があります。
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筆者は眺めているだけで泡盛ロックを飲みたくなってしまいました。
お次はどっしりとした緑の塊……
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沖縄ではおなじみの食材「青パパイヤ」ですが、筆者が関東の自宅で青パパイヤを手に取ったのは、今回が初めて。
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それにしても立派なパパイヤ。料理するのが楽しみです!
さらには葉の表の緑色と裏の紫色のコントラストが美しい「ハンダマ(水前寺菜・金時草)」もたっぷり。
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茹でると粘り気が出てくるため、おひたしでつるっといただけるのが嬉しい食材です。
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ポン酢をかけてずるっといきたいなぁ。
もちろん、沖縄野菜を代表する……
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「ゴーヤー」もどーんと登場!
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夏野菜でおなじみのオクラは、見慣れた五角形のオクラと丸オクラ(沖縄では「ネリ」とも呼ばれる)の2種類が入っていました。これはありがたい。
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「遠路はるばるよく来たね〜!」と集合写真をパチリ。
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どこかから三線の音が聞こえてくるようです。それでは2020年・野菜セットで心の帰省のはじまりはじまり〜。
8月12日:
アップルバナナをつまみ食い
沖縄はバナナ天国で、スーパーや農産物直売所では本土では見かけないようなバナナで溢れかえっています。
先日、叔母から送られてきた写真にこんなものがありました。
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ぶらりと垂れ下がる尻尾のような塊の根元を辿っていくと……そう、何を隠そうこれはバナナの木。写真の背景からもわかるように、沖縄でのバナナは道端に何気なく生えている街路樹の一種なのです。
子供の頃は祖父がもらってきた知人の庭のバナナをこっそりつまみ食いしたものです。確かに本土で食べる"いつものバナナ"とは何かが違うと感じていましたが、幼い自分には種類が違うとは思いもよりませんでした。
……と、思い出しつつ、ちぎること一房。
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届いた時にはすっかり食べごろで、あま〜い芳香が漂っていました。皮はかなり薄く、慎重に剥かないと千切れてしまいそうです。
それでは一口。
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「きゅーん」
甘酸っぱく濃厚な果実が口いっぱいに広がります。食感は丁寧にかき混ぜられたクリームさながらの濃密さ。まろやかな甘みときゅんとする酸っぱさが次から次へと押し寄せてきます。
「今年も変わらずバナナがある風景が広がっているんだろうな」と、沖縄へ思いを巡らせつつ、もぐもぐとアップルバナナを食べ進めたのでありました。
8月13日:
モーウィはサラダに
鮮やかなオレンジ色に、柔らかい光沢が美しいウリ科の野菜「モーウィ」。今思えば、苦瓜に冬瓜に糸瓜にモーウィ……お盆の沖縄はウリ祭りでした。
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見た目こそ芋に似ていますが、中身はフレッシュで見慣れた瓜そのもの。
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味は淡白で冬瓜に似た食感です。きゅうりに比べて青臭さは少なく、しっかりとした食感があるため、イリチー(炒め物)にしたり和え物にするのが一般的といわれています。
今回は薄くスライスしたモーウィを塩もみしたあと、ツナとマヨネーズと和えてモーウィサラダを作りました。
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他にも、お味噌汁に入れたり煮物にしたりと、モーウィは幅広い料理で活躍する便利な食材。まだ半分残っているので、次はどうやって食べようか楽しみです。
8月14日:
ゴーヤー&オクラをパスタへ
本土のスーパーでも一般的な夏野菜のゴーヤーは、やはり沖縄の夏を代表する食材です。
「ゴーヤーを選ぶときは、鮮やかな緑色をしていてイボが潰れていないものを選べ」と祖父から口酸っぱく教えられたものです。このゴーヤーを祖父に見せれば、きっとこう言うでしょう。
「このゴーヤーは上等さぁ(立派だね)」
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いとこの家の庭では毎年夏にゴーヤーが大量に実をつけるため、連日ゴーヤー料理が食卓に並びます。
ゴーヤーチャンプルーに、ゴーヤーのお浸し、シャキッとした食感と独特の苦味は夏に欠かせない味ですが、毎日となると……ね。
そんなときの助っ人料理こそ、パスタ。 「塩もみしたゴーヤーをシーチキン、にんにく、鷹の爪と炒めてパスタと和えるだけで、いつもと違う味わいになる」と、料理好きの叔父が教えてくれました。
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そういえばオクラも入ってたので、一緒に炒めちゃいます。これというレシピはありませんが、それもまたテーゲー(適当)に。
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パパッと作れて美味しくゴーヤーも食べられる元気いっぱいの夏パスタの完成です。ちゃんぷるーとはまた違うゴーヤーもなかなか乙なものですな。
8月15日:
青パパイヤを炒めよう
今日は青パパイヤを食べましょうか。
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青パパイヤこそ「”自宅に届いて驚くのではないかランキング”上位(筆者比)ではないか……」と私が勝手に思っている食材。今回届いた青パパイヤのサイズはなかなかのものでした。
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パパイヤは沖縄の古い家の庭に生えていることが多い植物で、青い状態のパパイヤは野菜として、熟れたら果物として食べられています。
まずは半分に割り、もし中に種が入ってたらスプーンなどでくり出して……
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青パパイヤを切ると皮の切断面から白い液体が溢れ出してきました。
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青パパイヤ特有の乳液と呼ばれる液体。この乳液にはタンパク質分解酵素「パパイン」が含まれており、触りすぎると手荒れやかゆみの原因となる場合があります。気になる方はゴム手袋などをしてから調理してください。
ピーラーで皮を剥き、スライサーで薄くスライスし、沖縄の食卓では欠かせないコーンビーフハッシュと一緒に炒め……パパイヤイリチーの完成!
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コンビーフハッシュとは:コンビーフに角切りのじゃがいもを入れた保存食品で、沖縄の一般家庭ではスパムと並ぶメジャーな食材。他にもチャンプルーや卵焼きなどで大活躍する(筆者談)
イリチーというのは、少しだけ汁気のある炒め物を指すウチナーグチ(「沖縄方言」という意味の沖縄方言)です。
炒めてもしっかりと残る歯応えがたまらん。パパイヤの味はクセもなく淡白で、塩気ともばっちり合うんです。辛みのない大根のような味わいでしょうか。こりゃまた白米が進んでしまいますね。
8月16日:
島らっきょうをポリポリ
酒のアテ代表・島らっきょうは、洗って剥いてそのまま食べられる沖縄野菜です。沖縄料理屋で席につくなりとりあえず注文する方も多いのではないでしょうか?
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味は本土で一般的ならっきょうよりも野蒜(のびる)に近く、そのままかじれば旨みと辛みが口いっぱいに広がります。私は塩やあんだんすー(沖縄油みそ)を付けていただくのが好きです。それでは一口……
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「ぼりっ」
うう、辛い。しかしうまい。あとは天ぷらにしてひと手間加えるだけで、より酒のアテとしてレベルアップしますよ。
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島らっきょうをかじりながら浮かんできたのは「ウークィ」。
沖縄ではお盆の最終日をウークィと呼び、ご先祖様をあの世へ返す儀式を行います。それを建前に大人たちは一同に会しとにかく食べて飲んで喋る、というのは、どの地域も共通しているのではないでしょうか。
子供の頃は、島らっきょうをかじりながら酒を浴びるように飲む大人たちを見て、内心呆れていました。けれど、島らっきょうをおいしく感じる今なら、当時の大人たちの気持ちがわかるような気もします。
「あー来年は帰れるといいな」と思いを馳せながら、ぼりぼりという音だけが部屋にこだまするのでした。
故郷、またいつの日にか
帰省せず自宅で過ごす夏休みはとても静かで快適でしたが、なんとなく寂しいものでした。例年とは違う今年の夏休みを彩ってくれたのは、故郷の野菜ボックスでした。
故郷の食材で心の帰省というのも、新しい時代の帰省スタイルなのかもしれません。
食材を料理し食べると、それだけで思い出が蘇ってくる……なんだか古いアルバムをめくっているような気分になりました。が、やはり「早く心おきなく故郷へ帰れるようになってほしい」というのが本音なんですけどね。
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文・写真=大城実結、編集=中川葵