シラスに干物、多彩な深海魚。
入り組んだ海が育む、豊かな漁場
この港から、まっすぐ届く海の恵み
沼津の海の幸を知る
沼津の海の人を知る
入り組んだ海が育む、豊かな漁場
この港から、まっすぐ届く海の恵み
静浦漁業協同組合
静岡県沼津市獅子浜243-1
駿河湾の最東端に位置する「静浦漁協」。洞(ほら)と呼ばれる小さな湾が多い独特の地形を有しており、小型船を用いた船びき網漁業が盛んです。水揚げされるのは透きとおるように輝くシラス。併せて、底引き網による深海魚漁も行われています。
静浦のシラスは水深50m付近に生息しています。ほかの産地に比べると水温が低く、水圧も掛かるため、身が締まっている点が特徴です。一気に深くなる海底地形により、漁場が近いことから、漁港内の加工場にてすぐに釜揚げできるというメリットも。圧倒的な鮮度を誇るシラスの美味しさは格別で、地元の人たちにも愛されています。
今回お話を伺ったのは大成丸の鈴木辰雄さん。静浦において半世紀以上も漁師を続けており、時流に合わせてさまざまな漁法を取り入れてきたそうです。鈴木さんの人情味あふれる語りを軸に、「静浦漁協 漁協直売所」などを手掛ける静浦漁協職員の伊藤大輔さんたちにも解説いただきながら、静浦地区の歩みと魅力に触れました。
お話をお聞きした、大成丸の鈴木さん(中)、静浦漁協の伊藤さん(左)と及川さん(右)
静浦のシラス漁は洞のなかでも小回りが利くサイズの船による「二艘曳き」にて進められる。ロープでつながれた二艘の船が並走して網を引っ張り、ベストなポジションを探りながら効率よくシラスを獲っていく漁法だ。入り組んだ湾内を蛇行するのは容易ではない。それでも漁師たちは長年の知識を駆使するとともに、見事なチームワークを発揮して、ぶつかることなくシラスを追い込んでいく。
水揚げしたシラスは漁場にほど近い漁港内の加工場へ。釜揚げにしてからパック詰めするまで最短1時間以内という。加工作業を担うのは静浦漁協の職員たち。昼ごろには新鮮な釜揚げシラスが漁協直売所に並ぶ。販売に至るまでの作業を一貫して行うことにより、衛生管理の徹底はもちろん、漁師たちに適正な買い取り価格を提示できるのだとか。少人数で回しているため大量生産は難しいが、素材のよさが際立つ鮮度抜群の釜揚げシラスが仕上がる。
鈴木さんによれば、静浦のシラスはカタクチイワシの稚魚が中心とのこと。茹で上げると真っ白で美しく、フワフワでありながらもプリッとした食感が楽しめる。味付けは塩とシラスの出汁のみでも、旨みが凝縮されていて抜群に美味い。猫が静浦のシラスを選り好んで食べるという話も大袈裟ではないだろう。
漁協直売所には絶品シラスのほか、漁協の職員たちが天日干し一筋を貫いて仕上げた干物なども並ぶ。直売所は基本的には無人だが、厳選された品々を求めて足繫く通う地元の人たちも多く、漁協の営みがこの地に根付いている様子が伺える。取り扱い魚種はアジやサバ、タチウオなどさまざまで、必ずこれが手に入るという確約はない。水揚げが安定していないことは否めないが、それだけに直売所の動向に関心を寄せる熱心なリピーターもいるのだろう。
「昔に比べると魚が獲れなくなったからね。魚がいなくなって漁師の数も少なくなってしまった」と言葉を紡ぐ鈴木さん。海の状況が変わって漁獲量が減少したことを憂いつつ、かつての活況に思いを馳せる。30年ほど前までは伊豆半島全域に民宿が立ち並び、大量に獲れた魚も高値で取り引きされたのだとか。そのころの静浦では養殖やまき網漁業も盛んだったというが、交通網の変化などもあって次第に下火となり、現在は鈴木さんも底引き網漁のみ行っている。とはいえ、海と向き合う実直な姿勢は当時のままだ。長年の経験によって冷静に現状を見極めながら、実に4代目という漁師稼業に勤しみ続ける。
静浦漁協も新商品の開発を検討するなど、この地の魅力をより効果的に発信する方法を模索している。漁獲量や人手に限りはあるが、シラスのみならず多種多様な深海魚が獲れるというのは大きな強み。漁協職員が手ずから加工しているからこその安心感も提供できる。「まき網の魚なども買い取り、鮮魚ボックスとして販売するのも一案ですね」と伊藤さん。こうしたアイデアを少しずつかたちにしていきたいとのことで、楽しみに待ちたい。
同時に、販路の拡大にも着手している。今後は日本最大級の産直通販「ポケットマルシェ(ポケマル)」などを通じて、瞬間凍結した漁獲物などを新鮮なまま多くの人に届けていく。ラインナップは漁獲高によっても変わるため、気軽に最新の情報を入手できるSNSの整備も進めているそうだ。
なお、シラス漁は1月半ばから3月半ばに掛けての禁漁期間を除いて行われている。漁期だからといって必ず水揚げされるとは限らないが、ひとつの目安としてほしい。シラスに限らず、駿河湾をわたる風で干し上げた折々の干物も絶品。海に携わる人たちの息遣いが感じられる静浦の地で、あるいは通販サイトなどを通じて、静浦ならではの美味しさを手に取ってみてはいかがだろうか。

住所/〒410-0105
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TEL/055-931-3010
営業時間/8:30~16:30
店休日/土曜日、日曜日、祝日