生まれて初めて命を食べた。

生まれて初めて命を食べた。

29年間生きてきて、今日産まれて初めて自分の手で命を終わらせてそれを食べた。

「ニワトリ飼うのにしめ方もしらねぇのか?肥えてきたらしめ方教えてやる」

ニワトリを飼いだした僕に70をとうにすぎたじいちゃんがそう言ったのは4月のヒヨコがうちに来た日だった。

あれからいつか来るいつか来ると思って飼い続け、今日その日が来た。

好き好んで命を奪いたいわけじゃない。

産まれたばかりのヒヨコから飼い始め、最初の1ヶ月は毎晩、夜になると寒いんじゃないかと心配して懐中電灯片手に小屋まで見に行っていたほどだ。

初めて卵を生んでくれた日は、嬉しくて飛び上がりたいほどだった。

家畜というより、ペットに近かった。

それでも今日、じいちゃんに頼んでやり方を教えてもらう道を選んだ。

二羽のニワトリを小屋から捕まえ出し、羽をクロスさせて紐で結ぶ。

相変わらずじいちゃんは言葉で教えず、ただ「見ろ」と言う。

二羽をじいちゃんの山まで持っていって、そこで血を抜いた。

ナタを持つじいちゃんは、まるで感情がないかのようにニワトリの首にナタを振り下ろした。

「おめぇもやってみろ」

そう言われていきなりナタを渡された僕は、素直に怖いと思った。

やってみろと言われて、はいそうですかと簡単に動物の首に刃物を振り下ろせない。

肉を食べるってことは必ず誰かがこれをやっていて、僕らはやり終わって綺麗な肉になったものを買ってきてるだけで、実際に目の前にニワトリとナタが用意されたら、本当に怖かった。

一羽の肉なんて、千円くらいのもんだと思う。

できれば千円払って肉買ってきて終わりにしたいくらい、ナタを持つ自分の手は重かった。

そうこうしているうちに、妻が様子を見に車で駆けつけてきた。

そしたらじいちゃんが今まで見たこともないくらい怒鳴った。

「バカこの!!腹さ子供いるもんが見に来るんでねぇ!!頭のねぇ子が産まれっど!!」

妻も僕もびっくりしたけど、じいちゃんは本気の顔で怒鳴りつけた。

僕はじいちゃんが昔からの迷信じみた話を信じていて本気で怒ってくれたことが、何の感情も持たずにさばいてるんじゃないと思えて嬉しかった。

じいちゃんたちの考えの中には所々で八百万の神様を信じるような古い考えがあって、百姓という生き方はそこに一番近いのではと思えた。

そんなことが頭を巡ったら、なんだかやれる気がしてそれからすぐに僕はナタで1つの命を奪った。

2つの命あった物を持った僕とじいちゃんは山を降り、家に帰り2つにお湯をかけ、羽をむき、さばき、そして夕食に並べた。

どこに食事に行っても簡単に食べれて、どこに買いに行っても簡単に買える。

当たり前のように食べられる肉が、やっぱり軽いものなんかじゃないと感じた日になった。

一羽さばいたくらいで大袈裟だと思われるかもしれないけど、今日の経験は生涯大事にしたい。

 

(2015.9.12)

 

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Writer

福島県相馬市

菊地将兵

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