【つながるポケ○(マル)日記】天国にいるポケマルユーザー"ここさん"のこと(執筆:高橋博之)

※こちらではポケットマルシェ公式noteにて2022年11月に公開した記事を再掲載しています。




僕は拙著にサインを求められるといつも決まって書く言葉がある。「食べることは、生きること」。

食は、「人を良くする」と書く。食べることをないがしろにすることは生きることをないがしろにすることだし、食べることを大切にすることは生きることを大切にすること。そのことを身を持って教えてくれた方がいる。末期癌と闘い、2年前にお亡くなりになったポケマルユーザー、ここさんだ。

2019年6月11日、僕はポケマルヘビーユーザーのここさんにメールを送った。

「突然のメールで失礼します。実はひとつ相談がありまして」で始まるメールの内容は、ポケマルで新たに始めたばかりの動画配信番組「ごにょスタ」への出演依頼だった。生産者さんとそのお客さんを東京のスタジオにお招きし、私が聞き手になって、ポケマルの魅力について、あれこれ語り合うという内容だった。第2回目でお声がけした生産者は秋田の漁師、山本太志さんだった。そこで、ポケマルで山本さんの商品をご購入いただいていた、ここさんに声をかけさせてもらうことにしたのだった。
 
自分が利用している産直ECサービスを運営している会社の代表からいきなり届いたメールに、ここさんはその日の夜、返信してくれた。その返信は、病院から送られてきた(以下、原文ママ)。


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初めまして、ここです。
お声かけありがとうございます。ただ今、私、抗がん剤治療中で入院中なのです。その頃には退院しているとおもいますが、副作用でヘロヘロ状態だと思いますのでご辞退させてもらいます。

二年半程前に肉腫が破裂するということがあり、奇跡的に今、生きています。寝たきり状態と食べられない状態が続き、抗がん剤の副作用で今までの様な活動が出来なくなってしまいました。娘のいる東京には行きたいのですが、まだ新幹線移動には不安がある体力の持ち主です。昨年秋にTVでポケマルを知り、それから利用させてもらってます。

買い物に行くのも大変な私が、買い物に行かなくても美味しい食材をいただけることに感激!感動!感謝!食べられない辛さからの脱却、美味しいもの食べたい!!次何食べようというめちゃくちゃポジティブな日々を過ごせる様になりました。美味しいものいただかせてもらって、幸せ感じてその感謝を生産者さんに伝えられる。本当に私の生きる糧になってます。"あー美味しかった、ご馳走様"と思えることがどれだけポジティブになれるか…自分でこんなに料理しようと思える、出きるようになるなんて想像できませんでした。

あっ、たいした料理はしてませんが。タイムリミットが一時間位なので。少しでも食べて体力つけて、気持ちも元気になり旅行に連れて行ってもらえる程、元気を取り戻せたのはポケマルのおかげだと思ってます。ポケマルのユーザーさんと仲良くなり、元気をいっぱいもらってるおかげもありますが。病院でもポケマル効果はお話しときました。素材が美味しいと食べられる、調味料使ってないと味覚障害でも美味しいのがわかる。ややこしい料理なんてなくても、まるかぶりで美味しいのがポケマル食材。そのままが美味しいんです。

私は本当にポケマルで助けられました。なので食べられない方が少しでも食べられるようにというのが今の私の一番思ってることです。 ついつい聞いていただきたいことが沢山あって長々と申し訳ありません。高橋様に直接こんなことお伝えできることはまずないので、舞い上がってしまったおばちゃんをお許しください。


僕は、ここさんがベッドの上からスマホで送ってくれたであろう長文のメールを何度も読み返した。ポケマルが、抗がん剤治療中の患者さんの生きる糧になっているなんて、、、ポケマルを始めて本当によかったと目頭が熱くなったことを今もよく覚えている。
 
そして、メールの最後にあった「食べられない方が少しでも食べられるようにというのが今の私の一番思ってること」というここさんの願いに応えたいと思った。そこで、「それはここさんの存在を世の中に伝えることだから、ここさんのメールの内容を発信してもよいか」とメールで聞いたところ、「発信していただいたら光栄です。食べられない人に何か伝わればとずーと思ってましてので」との返信が戻ってきた。

そのやりとりから半年経った2020年1月23日、ここさんのその後の容態が気になって新年の挨拶がてらメールを送ってみた。2時間後に返信が来た(以下、原文ママ)。


「高橋様ご無沙汰しております。
覚えて頂いてて感激です。
体調の方は良かったり悪かったりですが、なんとか生かさせてもらってます。
抗がん剤治療を止めることが出来ないので、辛いときがあるのも仕方ありませんが、ポケマルの食材で食べることが出来ていたり、生産者さんに元気をもらったり、ユーザーさんに元気もらってネガティブになることなく生かさせてもらってます。
温かい生産者さんやユーザーさんとの繋がりは宝物です。
ポケマルに出会えた事で癌末期の人生がこんなに変わるとは…感謝しかありません。

高橋代表に会われた方から代表はとっても素敵な方だと伺っています。
連絡頂いてありがとうございます。」


ここさんの容態を確認できて、ひとまず安堵したのだったが、その後ほどなくして世界はコロナ禍に突入し、僕も急拡大するポケマルの運営で慌ただしい毎日を送っていた。その年の9月末、長崎県南島原市のトマト農家さん、中村みずきさんから突然TwitterにDMが届いた。


「私のリピーターさんに、ここさんという方がいます。「ごにょスタ」に高橋さんが声をかけられた癌ファイターだった方です。

リピーターさんがリピーターさんを呼び集めた「ぽけふぁみ」というグループラインに私も加わり、一年以上毎日ラインで他愛もない会話を繰り広げてきました。

半月ほど前からここさんからの既読がつかず、みんなとても心配していましたところご家族の方からこんなラインが届きました。」

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「食欲がなかったけどトマトは食べれたの!と、何度も何度もご注文くださりました。ポケマルに出会えて、こんなに素敵なリピーターさんに出会えて、すこしでも命に繋がれたこと。 この上ない幸せです。 これも高橋さんのお陰だなぁと強く思っております。」


以上が、ここさんを巡る一連のやりとりである。僕は、ここさんに直接お目にかかったことはない。それでも、ここさんは一生忘れらない存在となった。ここさんは、生産者さんにも、他のユーザーにも直接会ったことはない。ネット上でこれだけの情緒的な関係を育めることに僕は驚かされた。食べものの力は凄い。生産者と直接つながって食べる食材、生産者さんとのつながり、ユーザー同士のつながりが、絶望の淵に立たされた人間の生きる力になっていたなんて本当にすごい。僕は、ここさんから大切なバトンを受け取ったような気がした。

 
ここさんが亡くなってから2年。これまで、僕は数えきれないほど、ここさんの話をあちこちの講演でしてきた。みなさん、ここさんの話に感動し、涙を流してくれる人もいる。今回、2度目のカンブリア宮殿に出演することになり、最初に番組プロデューサーから言われたのが「ポケマルが生んだ他のサービスにない価値である、人と人との情緒的なつながりを描きたい」だった。それを聞いたとき、まっさきに頭に浮かんだのが、ここさんだった。番組ではここさんのことは取り上げられないが、よい機会なので、ここさんとのやりとりをちゃんと文章に書き起こし、一人でも多くのひとに伝えたいと思い、書くことにした。


ここさん、天国からカンブリア宮殿を見てくれていますか?ここさんの思い、たくさんのひとたちに広がっていますよ。


 

Producer

 

 
   

中村みずき マルナンファーム|長崎県南島原市

   

    【毎回子ども達が取り合って食べるほどのトマト】
こんにちは。マルナンファームの中村みずきです。
父の代からトマトを作り始めて40年になります。安心安全は当たり前!食べてくださるお客様の事を考えながら、常に美味しさを追求し続けながらトマト栽培に力を入れています。我が家の食卓には毎食トマトが出るにも関わらず、毎回子ども達が取り合って食べるほどのトマトです。是非、食べてみてください。



    


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