台風被害に消費者ができる支援とは?千葉県の農家さんに聞いてきたよ(後編)

9月21日、千葉県北総エリアに向かったポケマル編集部。次なる目的地は、成田空港の西南で有機農業を営む住田学さんの畑です。

\この記事は2本立てです/
  1. 台風被害に消費者ができる支援とは?千葉県の農家さんに聞いてきたよ(前編)
  2. 台風被害に消費者ができる支援とは?千葉県の農家さんに聞いてきたよ(後編)…この記事です
 

目次

 
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4章 【解説】千葉県の農業生産額と被害額

千葉県の農業産出額は多く、平成29年の統計では総額4700億円。北海道、鹿児島、茨城に続く全国第4位を誇ります。農産物の種別に見ると、鶏卵は全国2位、野菜や豚は3位、米は8位に位置しており、まさに首都圏の人口を支える”食料供給基地”であると言えます。

一方、今回の台風15号による被害額は10月4日に発表された集計では411.6億円を超え、被害調査は未だ継続中であるとされています。主要作物であるニンジンはおよそ22.5億円、トマトは12.7億円にのぼります。つまり、一夜の台風で、平成29年の生産額比で8.7%以上が損失したという計算です。

また、定置網が破れたり、いけすや養殖施設の水産物に被害があったりと、水産業の被害額も10億円を超えています。

前編で訪問した平野さんの現場で見たような育成途中の作物への被害は、秋冬に収穫期を迎える作物の生育に大きく影響し、収量減や、規格外品の増加などが予想されます。

全国的にも指折りの農産物生産地である千葉県産の野菜の出荷量が減るということは、日本全体の秋冬野菜の取引額に少なからず影響を及ぼすと予想ができるのです。

参考資料:千葉県農林水産業の動向-令和元年度版-|千葉県(PDF)台風第15号の影響による農林水産業への被害(第7報)|千葉県(PDF)


5章-1 芝山町・住田さんの場合

旭市の平野さんの畑を後にした私たちは、1時間ほど車を走らせ、成田空港のすぐそばにある山武郡芝山町で有機農業を営む住田学さんの畑に到着しました。すると突然……

こんにちは、よろしくお……

どうも! あのさ、”おおまさり”って知ってる?

え、ええ……?


落花生の品種で、いま育てているんだよね。そうだお土産に持って帰ってよ!

い、いいんですか? うれしい!!

今年はハクビシンの被害がひどくてさあ

おしゃべりしながらすごいスピードで落花生を外していく住田さん


あとこっちは新生姜の畑でさ……

楽しげに笑みを浮かべながら、次々と自身の畑を案内してくれる住田さん

この新生姜はさ、鰹にぴったりなんだよ。ビールでこうね。うまいんだよ〜


「ああっ、たまりません!」……って、取材中でした。いかんいかん。


成田といえば、台風の影響により空港が陸の孤島になったというニュースも深く印象に残っています。住田さんの畑も豪雨による被害を受けていました。

畑上空は成田空港へ着陸する旅客機が頻繁に通過する


ブロッコリーとニンジンの畑は水浸しになっちゃったし、水没したせいで土もカチカチに固まり駄目になっちゃったんだよね

さらに農園は取材前日まで停電していたのだそうです。そのため、冷蔵庫に保管していた出荷用のオクラは全て廃棄することになってしまいました。

まだまだ美味しく食べられそうですが、住田さん基準では販売できないのだそう


「台風の訳あり品あるなら買うよ」と言ってくれる方がいるんだけど、正直いうとそんな野菜を売る気にはなれないんだよね。だって、農家としてはやっぱり、美味しい野菜を食べてもらいたいからさ

そう言って案内してくれたのは、なすの畑。

手前は庄屋大長なすという種類で、すっご〜く柔らかくておいしいんだよね。油との相性が最高だから、天ぷらがうまいんだ。

ああ……たまらない…

そして奥のなすはロッサビアンコというイタリアの伝統品種。これはねえ、輪切りにしてオリーブオイルを塗ったあと、挽肉とチーズをかけて焼くとうまいんだよね〜

あ〜ん、お腹が空いちゃう!


しかし、目の前に広がる光景は、台風が上陸した現実そのものでした。


X型に組まれた支柱は見るも無惨に倒れており、大きく育ったナスたちも傷つき、萎びてしまっていたのです。

ほんとうは早めにここを片付けなきゃならない。けれど、僕はひとりで畑をやっているから、どうしても人手が足りなくて、ここまで手を回せないんだ

このナス畑を片づけたら何を植えるんですか?

いやまだまだ。まず緑肥*をまいて土をつくらないと。次に何か植えられるのは、来年になるかな

*緑肥とは:麦やマメ科の牧草を育て畑に漉き込むことで、植物や根粒菌の働きにより蓄えられた窒素分を土中に供給する、天然の肥料のこと。化学肥料に頼らない生産方法で行われる土づくりの方法のひとつ。


本来ならば、お客さんの手に渡り、喜びとお金を生み出していたはずのナス。けれど、今では販売することもできず、かといって片付けて次の作物を植えることもできず、ただぽつねんとそこに佇むことしかできません。


5章-2 次の種を撒くための"ネコの手"という支援

いま住田さんにとって、一番必要な支援って何ですか?

そうだな、僕には人手かな

実は取材当日も、援農という形で別の方がお手伝いにいらっしゃっていました。ひとりで広大な畑と向き合うということは、想像する以上に厳しいものです。そこに今回のような自然災害が訪れたのならば。

手伝いの内容も、決して難しい仕事ではないんです。支柱を解いてもらったり、片付けたりと単純な作業なんですよね

収穫期が終わり、片づけられるのを待つキュウリ畑。シンプルな作業なのに、それさえもできない


あっという間に季節は巡ってしまう上に、そもそもが土づくりに時間と手間のかかる有機農業です。

長い時間をかけて手塩にかけて育てたナスが、最高に美味しい秋ナスシーズンを待たずに終わってしまったことが、きっと残念でならないはずなのに、住田さんの表情は穏やかでした。


限られた時間と気象条件の中で土とともに生きてきた強さが、ひしひしと伝わってきました。住田さん、ありがとうございました。


6章 ポケマルだからできるアクション

”支援”という言葉はちょっぴり小難しくて、仰々しい。

募金やふるさと納税などの手段があるのはもちろん知っているけれど、その他に、私たちにできることって、何があるのでしょう。

今回、私たちが学んだことはこちらです。

現地に行って考えた支援のいろいろ

①買って食べて記憶する

できれば被災した人から直接買いたいけれど、被災直後は売ることができない場合もある。その地域のものを見かけたら買い、地域全体を後押しすることも、間接的な支援になる。また、自分が実際に行動した記憶が残れば、被災した人の作物が復活した頃に思い出すことができる。

②人手となる

1日もはやく復旧するために、人手を必要としている農家さんのところに手伝いに行く。ただし、手伝える作業があるかどうかは農家さんの考えによる。手伝いを受け入れられない農家さんもいるので、注意が必要。

③遊びに行く

道路や電気水道などのライフラインが復活し現地の生活がひとまず落ち着いたら、実際に足を運んで、自分の目で見て、体で感じる。飲食店や商店を利用し、現地でお金を使う「楽しかったよ!」という口コミ発信は、たくさん集まれば大きな力になる。


最適な答えは人によって違いますが、近くに住んでいる方には「遊びに行く」というのも、ぜひ選択肢のひとつに入れていただきたいです。

九十九里浜に銚子漁港、内陸部へ行けば広大な畑とともに里山の風景が姿を残します。かわいく賢いゾウたちがたくさんいる「市原ぞうの国」も、ふわふわの鰻が名物の成田も、小江戸の街並みが広がる佐原も——ぜんぶ千葉県にあります。


そして、全国の生産者さん。

もしも、人手が必要なことや、知って欲しいことがあったら、試しにポケマルのプロフィールやコミュニティに書いてみませんか?

災害は、もちろん台風15号だけじゃありませんし、千葉だけでもありません。

大きな自然災害ではなくとも、日常で起こるトラブルだってあるでしょう。もっといえば、「人手があったら、3日かかる作業が1日で終わって、子どもを遊びに連れて行けるのに」ということだって、あるかもしれません。

作ることに関わりたいと思っている食べ手さんは、多くはないかもしれませんが、ちゃんといます。もしかしたら、あなたの近くに住んでいるかもしれませんよ。


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文=大城実結(5章・6章)、中川葵(4章・6章) 編集・写真=中川葵

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