幻の洋梨ル・レクチエ解禁!新潟・渡邊さんの畑でその秘密を探ってきたよ

果物大好き人間、農家さんのお手伝いに行くのが生きがいの、ポケマルインターン尾形です。

先日もオフィスで「あ〜、農家さんとこお手伝い行きたいな〜」とぼやいていたら、編集から呼び出しを食らいました。いったい、何事かしら?

「今週末、新潟の果樹農家・渡邊さんの畑で収穫作業するから尾形さんも……」

およっ、渡邊さんですか!いきます!!

渡邊さんとは、「くだもの屋にへじ」の15代目・渡邊直樹さんのこと。桃、梨、イチジクなど多数の果物を出品していたため、果物好きの筆者は常にマークしていたのです


さて、それはさておき、ル・レクチエとは一体なんなのやら。

軽い気持ちで調べていたら、都内では滅多にお目にかかることのできない高級品であることが判明。贈答用だと1個○千円という値段がつくことも……。

そんな高級品、私たちが収穫しちゃっていいのかしら?

不安を抱きながらも、逆に収穫させてもらえる機会なんて滅多にない! この機会を逃すまい! ということで、ポケマル編集部は一路新潟へ。

新潟県の秘められし洋なし「ル・レクチエ」に迫ります。

※この記事は2018年に公開した記事を2019年向けに修正し再公開したものです。(初回公開日:2018年11月21日)

 

目次

     ここに目次が表示されます。    

幻の西洋なし「ル・レクチエ」がついに解禁!

日本の“こめどころ”といえば新潟県、新潟県といえばお米。そんなイメージがありますよね。しかし、そのお米よりも、県内での栽培の歴史がずっと長い食べ物があるのです。

それは……です。

新潟県での果樹栽培は江戸時代の初期に遡り、日本ではじめて梨のマニュアルをつくった歴史*もあるのだとか。

* 『果樹園芸大辞典』 ,果樹園芸大辞典編集委員会著,養賢堂


そんな新潟県には、知る人ぞ知る、幻の梨があります。

その名は「ル・レクチエ

西洋なしの一種で、完熟したものの果皮は黄色。洋梨というと「ラ・フランス」をイメージする人が多いと思いますが、ル・レクチエを口にしたことのある人はこう語ります。

「とにかく、口溶けがまろやかで……。唯一無二の柔らかさなんです。ラ・フランスとはまったくの別物ですね」


ル・レクチエの栽培が始まったのは明治36年、小池左右吉がフランスから苗木を持ってきたことに始まります。

しかし、栽培方法はもちろん、収穫後の追熟や食べ頃を見極める労力、さらには病気にも弱いことから、原産国フランスではもう栽培されていないのだそうです**。

**『からだにおいしいフルーツの便利帳』,三輪正幸監修,高橋書店

そんな状況の中で、なぜ渡邊さんはル・レクチエを育て続けているのでしょうか?

収穫しきるまで帰れません! 責任重大の収穫作業

ル・レクチエが畑一面に広がり、「わぁ〜レクチェだぁ〜!」となるのを想像していた私。しかし、畑に着いて目にしたのは、木からぶらさがっている黄色い袋の数々でした。

えっと、ルレクチェはどこに……?

ひとつひとつ袋がけしてあるんですよ。ほらね

ルレクチェとご対面。

優しく教えてくれたのは、このル・レクチェ園の主である渡邊直樹さん。

この日、2018年10月22日は、渡邊さんのル・レクチエの一斉収穫日。読んで字のごとく、この日で全て収穫してしまいます。

つまりぶら下がっている実のすべてを収穫するまで帰れないということです。

よし、収穫するぞ! やるぞーっ!

気合いも十分、午前10時に作業開始のゴングが鳴り響きました。

軸も商品。ずしりとした果実の重みに感じる責任!

はじめに渡邊さんがお手本を見せてくれました。収穫はとても簡単そう。ル・レクチエのお尻を持って、クルッとしたらパキッととれました。

収穫の仕方を教えてくださる渡邊さん

収穫のポイントは、軸にある「離層」という節。収穫の時期になると「離層」ができ、そこから簡単に折れるようになっていると教えてくれました。

しかし、簡単だからといって侮ることなかれ。ル・レクチエは軸までが商品。つまり、変なところで軸を折ってしまうと、果実自体はきれいでも商品としての価値が下がってしまうのです。

収穫したら、軸を実と実の間に入れるようにして、カゴにいれてなあ。そうせんと他のルレクチェを置いたとき、傷つけちゃうのよ〜

ル・レクチエは繊細なので、置き方にもこだわります

パキッと折れた瞬間、ずっしりとくるル・レクチエの重み。冷静な顔をしながらも、

これ1個で数千円……

と考えずにはいられません。ル・レクチエを持つ手にのしかかる責任。重さは倍に感じました。

収穫のときに強い衝撃を与えると、今は分からなくても追熟したときにはっきり分かります。木のふもとに転がってるのは、病気や梨の生理的な障害で商品にならないやつなんですわ

指さしている箇所はブラックエンドという生理障害を引き起こしてしまった梨

もったいないけどさあ、もう商品にはならないから、鳥さんとかに食べてもらおうと思ってなあ。今年も無事収穫できたお礼に〜って。贅沢だよねえ(笑)

もうひとつ注意してほしいことが……このトゲ、見えますかね?

そう渡邊さんが指さしたのは、果実が実っていた軸の根元にある小さなトゲでした。

当たったら痛そう……

これ、来年実がつくところなんですが、頭に刺さると痛いし、折ってしまうと来年ルレクチェが実らなくなる、つまり、物理的にも経営的にも、二重の意味で痛いんです

うまいっ、座布団一枚!

……なんて言ってる場合じゃありません。現時点で来年の収穫も意識しなければならないということです。

おおお、慎重に丁寧にやさしくですね。収穫、がんばるぞぅ……

この収穫作業が、どれだけ重大なものかを自覚してしまいました。思わず声が震えます。

こだわり高じてル・レクチエ栽培の司令塔に!?

畑に着いたとき、筆者を戸惑わせた犯人である袋。わざわざ袋をかけるのはなぜなのでしょうか?

袋をかけないと、雨風でどうしても見た目が悪くなったり、病気がつきやすくなっちゃうんですよ。なので梅雨入りする前までには袋がけに追われます。うちは贈答用商品で勝負しているから、やっぱり見た目には気を遣うんです

贈答用にこだわる理由は?

限られた労力ですみずみまで目を行き届かせようと思うと、どうしても広い面積の栽培はできません。だったら、一つひとつを丁寧に育てて一個あたりの価値をあげるしかないんですわ。うちではルレクチェ以外の果物にも、イチジクでさえも袋がけをして育てています

これが渡邊さんのイチジク畑。イチジクに袋がけをするのは珍しいことなのです。

おお、この大切に育てられている感じ……。箱入り娘ならぬ袋入り娘ですね!!

袋にいれると味も安定するんですよ。ルレクチェには専用袋があって、どんどん改良されていっています。昔は二重じゃなかったけど、今は二重になっていたりね

二重になった袋。県の本気度がうかがえる。

袋の理由が判明し、順調に前に進んでいくと、今度は謎の紙を発見しました。むむ、これは?

幹に何やら白い張り紙が。「調査樹」と書かれている

ああ、それは調査対象の樹木だという印です。毎年、県の担当者がルレクチェの成長具合を調査しにきます。そこで蓄積されたデータを分析し、当園を含め県内数箇所の畑のデータから、県側でその年のルレクチェの収穫日や解禁日の基準を定めているんですよ

解禁日……? いつでも出荷していいわけではないんですか?

出荷するのは自由ですが、解禁日前に出しても「ル・レクチエ」と名乗ることができません。一定期間以上追熟させ、おいしさがのってきたものでないと、県のブランドに影響するので。ちなみに今年(※取材時2018年)の解禁日は11月21日になりました

県のブランドを左右する解禁日の基準となる渡邊さんの畑は、ルレクチェ栽培の重要な司令塔なんですね!

お父さん(14代目・渡邊さんのお父さん)は、果実品評会で表彰されたこともあるんだよ。その腕前が認められてるんじゃないかねえ

ルレクチェって、剪定が難しいんですよね。今年伸びた枝に実がつくのは再来年、つまり2年後を見越した剪定が必要です。それができるのがうちの父、14代目です。僕はまだ修行の身なんです

一人前になるには、長年の経験が必要そうですね

もっと安定収穫できる果物もあるから、多くの農家さんはそっちに変えてしまいました。最近は原因不明の病気が蔓延してしまっていて……。僕は葉についた病原菌が原因ではないかと考え、試しに収穫が終わった後に畑の落ち葉を全部かき集めて燃やしてみたら、大当たり。今のところ病気は防げています

ルレクチェは渡邊さんの努力の賜物なんだ……!


ふと気がつくと、いつの間にか黄色い袋は見えなくなっていました。

収穫の成果が目に見えて分かり、この上ない達成感! ずっと手を上にあげて収穫していたので、腕が痛いような痛くないような……。

やっぱり人手があると速いですね。普段は3人でやってるから丸一日かかるのに、まだ3時間しか経ってないですわ

夜までの収穫も覚悟してきましたが……無事終わって良かったです!

ほっと胸をなで下ろした昼間の12時頃、お腹のギュルルルルという音と共に、収穫作業は幕を閉じました。

ろくでなしの”ロクチェナシ”は追熟が命!

樹齢90年以上のル・レクチエ。にへじの最古木と母・圭子さん

せっかく現地に行くのなら、収穫したばかりの新鮮なものを食べたい……しかし! ル・レクチエはまだまだ食べることができません。

収穫終了と共に、追熟という作業の幕開けです。

食べられるようになるのは、収穫してから1ヶ月後。ルレクチェは他の果物と違って、木になったままだと熟さないんですよね。貯蔵することで果肉が柔らかくなり、味もどんどんのってきます。この過程を追熟といいます

ルレクチェが新潟に来てから100年以上経ちますが、出回り始めたのはここ数十年のこと。その理由はこの追熟工程の難しさにあります。

ルレクチェは『栽培半分、追熟半分』と言われています。収穫すれば終わりではなく、収穫後のプロセスも栽培と同じくらい重要ということです

追熟がマニュアル化されるまで、ルレクチェは商品にならない「ろくでもない梨」=「ろくちぇなし」と呼ばれていた時期もあったそうです。

追熟期間の1ヶ月が栽培期間の11ヶ月と同じくらい重要だとは……驚きです。

追熟では、ルレクチェを置いておく場所や温度管理や湿度、果樹の呼吸に合わせた換気などがポイントです。全てを平均的に熟させるのではなく、全体の1割程度を解禁日「プリムール(フランス語で“初めて”“一番目”の意)に販売できるよう調整するんですよ

じゃあ、届いたらすぐ食べられるんですね!

実はそういうわけでもなくて。追熟が進んでいるものから送ってはいますが、最終的な食べ頃はみなさんにお任せするしかないのです

ええ、そんなぁ……

「10個買って、毎日食べてるうちに一番おいしい熟し具合のものに当たるだろう」というくらいの感覚です。そしてそのときの匂いや感覚を覚えておいてください

ル・レクチエは、熟してくると軸の付け根から皮が茶色くしわしわになってくるそう。これがおいしい状態にも関わらず、「腐っている」と勘違いされることもあるようで……。

「一見さんお断り」で販売している農家さんもいらっしゃいます。ル・レクチエが追熟するものであることを知らずに未熟なものを食べてしまう恐れもあるので。それがクレームになったら嫌ですからね

お客さんに送るベストなタイミングは「黄色くなりたてのバナナ」のような色をしたル・レクチエで、食べ頃は「シュガースポットが出はじめたバナナ」のような果実だと渡邊さん。あとはお客さんの好み次第なのだそう。

一時は「ろくちぇなし」と言われていたものが、今や一見様お断りになるとは。ろくでなしの挽回ですね!

15代目が語る。これがくだもの屋にへじだ!

配送できないくらい熟したイチジクは、現地でしか食べられない

ル・レクチエ愛が強い渡邊さんですが、他のフルーツへの愛情も全開です。

ポケマルは、固定のお客さんがついてくれるから嬉しいんだけど……その分大変なんだよね

ボソッと呟く渡邊さん。んん……その真意とは?

発送するときは、お客さんによってメッセージを変えるでしょう。初めて買ってくれた人や常連さん、それぞれ伝えたいことも違いますしね。時間があるときは一筆書いてるんですが……

うわあ、そりゃあ大変に決まってますよ

大変ですけど、本当においしい果物を食べてもらいたい一心ですね。あとは、どの実を送るか選別するのもひと苦労です。ルレクチェは追熟するからそこまで気にしないけど、他の果物は基本的に完熟収穫だから、収穫日を記載して発送するようにしています

以前ポケマルに送っていただいたいちじく。収穫日が書かれている

そういえば渡邊さんの段ボール箱って可愛いですよね。届いたときにウキウキします。資材にもこだわりが?

箱をみたときに新潟へ来たくなるようなものを目指しています。あとは、同じお客さんが一年通して果物を買ってくれるので、パンフレットをこまめに変えたりとか。あ、グッズもほしいんだった。ゆるキャラつくってマグネットに……。あとあと! ツアーとかもやりたいよね。やっぱり現場を見てほしいし、お客さんとも会ってみたいし

以前ポケマルに送っていただいたときの箱。AB面で間違い探しができるようになっている。

(こ、こだわり方がすごい……)なぜそんなにも一生懸命になれるのでしょうか

一回農業とは違う仕事をしていたからですかね。ホームセンターで農業資材を売る仕事をしていたのですが、農家さんと話すうちに、資材を売っても現場は何も変わらないことに気づいたんです

だからこそ農家を継いで現場から変えようと?

はい。でも、私が継いでも未だに危機感はあります。主に父ちゃんが栽培、母ちゃんが梱包、そして自分が販売という役割分担でやっていますが、誰か一人でも欠けたら経営が成り立たなくなるだろうと

大きなルレクチェとご対面して驚く母・圭子さん

難しい問題ですね

小規模な農園だからこそ、お客さんとのコミュニケーションを楽しめたり、柔軟な挑戦ができたりするんですけどね。新たな担い手も増やしたいものです

一人ひとりのことを想い、丁寧に対応するその姿は、果物一つひとつを真心こめて作っている姿と重なりました。

渾身のル・レクチエ、いよいよ解禁!

11月21日。ついに追熟を終えたル・レクチエが、私たちの元に届くときがやってきます。

超重要工程の追熟をお手伝いできなかった後ろめたさを少し感じつつも、そこはプロにお任せした方が絶対いいはずだ!と割り切って、楽しみに待つのみ。

届いたら、食べ頃の見極めを頑張るぞ! ルレクチェは農家さんとの共同作業だー!!

ル・レクチエの旬は一瞬です。ご購入はお早めに! 

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渡邊さん、貴重な体験をありがとうございました!

収穫し終えた畑でパシャリ

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文=尾形希莉子、編集・写真=中川葵

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