――限界突破
明るくて、強くて、まっすぐ。汗が滴って、涙も拭って、それでもめげずに進んだ先にあるもの。ボロボロに傷つきながら、周りに支えられて、やっと辿り着いた境地。
「限界突破」って、そんなイメージじゃありませんか?
今回の主役は、高知県のとあるご夫婦。
ふたりが今に行き着くまでに、何度も何度もぶつかった大きな壁。もがきながら、さまよいながら、それでもふたりで笑いながら、一緒に歩いてきた道の先にあったのが、「限界突破トマト」と「限界突破生姜」でした。
何も知らなかったから、できた
東京から飛行機で1時間半。9月も終わりだというのにギラギラ輝く太陽と、真っ黒にやけたおんちゃんたちが出迎えてくれます。ここから車に乗り換えまして、さらに1時間半。
向かう先は高知県大豊町。
日本三大秘境にも数えられる祖谷と隣接する大豊町。森林が面積の95%を占める大豊町では、古来からその風土を生かした暮らしが営まれてきました。
大豊町の誇る見所のひとつが、山の斜面を生かして作られた棚田。
見よ、この絶景!
急斜面いっぱいに、延々と棚田が続いています。その姿はまるであたかも天国への階段のよう。突き抜ける青空と、黄金の稲穂のコントラストに思わず息を呑みます。
こんな風景を眼下に見下ろし、窓から入ってくる冷たく澄んだ空気で肺を満たし、ここは本当に天国なのではないかと思い始めた時に見えてくるのが、ラッキー農園のビニールハウス。
そう、彼らが「限界突破トマト」と「限界突破生姜」の作り手です。
お仕事の手を止めて、人柄が伝わってくるようなあたたかいピクニックセットで私たちを迎えてくれたのが、酒井寿緒(ひさお)さん、笑子(えみこ)さん。
2010年にこの土地に移住をして、その翌年にラッキー農園を営み始めました。今は主に有機生姜と有機トマトを生産しています。
「寒いのが嫌であたたかいところに来たはずなんだけど…この地域は高知の北海道。全然あったかくないんですよー!」
そんなことをコロコロ笑いながら話してくれるお二人は、元々は北海道で生まれ育って、北海道で出会ったそうです。
元々サラリーマンだった寿緒さんが「農業をやるぞ!」と一念発起。農業経験があったわけでもなく、知人に農家がいたわけでもありませんでした。
「ほんとうに、何も知らないところからのスタートでした。何も知らないから、美味しんぼを読んで『時代は有機だ!』って有機の世界に入ってみたり。そして入ってから気づくんです、この大変さに!(笑)」
と寿緒さん。
「何も知らないからひとつずつやっていくしかなくて。でも元々知っていたら、ここまでこれなかったかもしれないね」
と笑子さん。
高知に飛び込んで、農業法人や大豊町の知人の元で農業の経験を積みました。その知人の元で運良くこの土地に出会えたはいいけれど、それからも困難の連続!
「この土地は、地元の方のご好意で貸していただけた場所です。日当たりはいいのですが、しばらく使われていないところの水はけがとても悪くて。僕たちが作ろうとしていたトマトは、水はけが悪いのは死活問題。大規模な工事をして、地盤を整えました。
水路の問題もありました。このあたりには、梶が森という標高1400メートルから湧き出るとても美しい水があります。有機の野菜作りには美しい水が要。
何も混ざっていないそのままの水を使うために、ツルハシを抱えて、穴を掘って、ホースを埋めて。そしてやっと水路の一番てっぺんから、水がひけるようになりました」
収穫は年に5日間だけ。究極の生姜
右も左も分らない土地で、全てが未知の挑戦。起きては降ってくる難題を、二人はひとつずつひとつずつ、解決していきました。
そしてついにふたりの畑に、たわわなトマトと生姜がなるのです。
「僕たちね、まだまだ勉強中なんですが、ひとつ特技があって。毎日毎日、トマトをじーーーっと見ていたら、トマトが呼んでくるのが分かるようになったんです。おいしいトマトが主張してるのが分かるようになったんですよ」
ふたりで顔を見合わせて「ねー!」と笑います。
「生姜も、美しい水で農薬を一切使わずに育てると、こんなに美味しくなるんだ!と。なんだか親バカみたいですけど(笑)」
1年に5日間、特別な日があって、それが11月に収穫をする5日間。その5日間、限界突破生姜は、限界突破「新」生姜へと変貌します。
笑子さんに、新生姜の特徴とオススメの食べ方をうかがいました。
「まずは定番のガリ。皮がとっても薄くて剥く必要がないので、そのまま切って作っていただけます。生姜糖なんかのお菓子つくりの際も、えぐみをぬくための茹でこぼしも不要です。
生姜全身をまるごと食べていただきたいなあ。うすくスライスしたり、千切りすれば、そのままサラダのトッピングにできます。マヨネーズとの相性も◎!工夫しだいで、いろんなものになります。
もずく酢の上に細く切った千切り新生姜をどっさりかけたり、生姜のみじん切りを醤油と昆布を入れたに一晩漬けこんだら万能調味料にも。たまごかけごはんやきゅうりにのせると美味しいんです。
ウオッカに漬け込んでも美味い酒になるんですよ。もちろんジンジャーシロップにも。
日持ちがいいのも特徴なので、保存方法の説明書に従っていただけたら、常温で1ヶ月は日持ちします。いろんな食べ方を試してみていただいきたいです。
でも実は、ここに書いたもの、私たちが考えたものではなくって、全部お客様が考案してくださったんですよ」
消費者が開拓していく、限界突破生姜
いちど食べたら分かる限界突破生姜の美味しさと、一度会ったら分かる酒井ご夫妻のあたたかい人柄に魅せられて、おふたりには全国にたくさんのファンがついています。
おふたりが嬉しそうに話してくださった、お客様とのやりとり。
「すり下ろして毎朝紅茶にいれているだけで、風邪をひかなくなったよ~と教えてくださった方もいます。基礎体温が上がって、それまでかかなかった汗をかくようになったんだとか。
興味をなさそうに試食の生姜糖をつまんで歩いていってしまった男性が、爽やかさに驚いて買いに戻って来てくださったこともあります。
のどの痛みがおさまってまた生姜糖の試食をたべにきた女性もいました。本当に、嬉しいことばかりです」
おふたりの話を聞いていると伝わってくる、作物への真摯さ。お客さんへの誠実さ。
思わず聞いてしまいました、大変じゃないですか?と。
「僕たちは何も知らずに始めたから、ああしたほうがもっと楽だったんじゃないか、簡単だったんじゃないかって今になって思うこともあります。
有機じゃない方が楽だったでしょうし、『限界突破』を目指さずに農協規格のものを大量に作ったほうが稼ぎにもなったかもしれない。
でも、もうね、そっちの道にはいけないんですよ。お客さんが待ってくれているから」
「あのトマト今年も待ってるよ~とか、生姜美味しかったですってわざわざ会いに来てくれる人がいると、嬉しくって。やるぞー!って気持ちになるんです」
笑子さんの言葉に、寿緒さんはこう続けます。
「僕は元々、ダメ人間だったんですよ~。今、こうやって朝早くから汗水流して働いているのを見たら、家族や親戚は驚くと思います。
僕がこうなれたのは、お客さんのおかげなんですよね。喜んでくれる人がいる、待ってくれてる人がいると思うと、休んでいられないぜ!って。僕を、お客さんが更生してくれたんです」
ラッキー農園が目指すところ
おふたりの住む大豊町は、「限界集落」という言葉が生まれた土地でもあります。
日本で一番最初に人口の半数を65歳以上が占めた自治体です。
「大豊では、水路の掃除や道の草刈りなど、みんなでやっていかないと独りでは到底生きていけない。
ここが好きだし、畑に愛着もあります。この土地を永住の地にしたい。だけど、そのためには人を増やさないと、ここでの暮らしはなりたちません。
だから僕たちが雇用を作って、この土地に人を増やして、ここでの暮らしをつないでいきたいですね」
「私たちが地元の方の紹介でこの畑に出会えたように、外の人と地元をつなぐ立場ってすごく大切だと思うんです。私たちはとってもお世話になったから、次は自分たちがその立場になって恩返しをしないとなあと思っています」
そう言ってふたりはコロコロと笑いました。
トマトと生姜を『限界突破』させてきたご夫婦が次に突破させるのは、ふたりを育ててくれたこの限界集落なのかもしれません。
関連出品
酒井夫妻の限界突破生姜。2018年は11月18日のみの発送です。ご注文は11月15日21:00までにお済ませください〜。
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(文/藤井郁乃)
※この記事は2016年11月11日公開の記事に加筆修正したものです。