【つながるポケ○(マル)日記】共育ちのできる「のろまん」農場ー果樹農家の田中球太朗さんー(執筆:高橋博之)

※こちらではポケットマルシェ公式noteにて2023年2月に公開した記事を再掲載しています。



長野県中野市。標高2,000mを超える山々に囲まれた自然豊かな地域で、年間約60品種の桃を栽培している「のろまん農場」を訪問してきた。長男として1996年に生まれた田中球太朗さんは、地元の高校卒業後、県の果樹試験場で栽培を学び、東京の農業大学校で経営を学んだ。有機農産物の普及と販売をする会社に勤めたのち、農業武者修行のため、車で全国各地の農家と漁師を巡る旅をし、九州ではお嫁さんの陽子さんまで見つけ、一昨年4月に実家に帰り、就農。すぐにポケットマルシェで直販を始め、多くの消費者とつながっていった。

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のろまん農場の皆さんと

母の泉さんは「ポケマルさんは、農家としてスタートした球太朗にとってご祝儀のようなもので背中を押してもらった。ありがとうございました」と頭を下げられ、恐縮してしまった。さらに、私はこの日、出張8日目を迎えていたのだが、その間、なかなかコインランドリーに行く暇がなく、同じ服を数日間着ている状態だった。それを見かねて、「洗濯してあげるから脱いで」とその場で着ているものを脱ぎ、リュックから溜まった洗濯物を出し、洗濯機を回してくれたのだった。まるで親戚の家に来たかと錯覚するような温かさがあふれいた。

『農』に『ロマン』を求めるから、のろまん。農業を通して多くの人たちに夢を与えられるように頑張りたいという思いから、泉さんが「のろまん農場」と名付けた。元々、長野市内の非農家出身だった泉さんは高校卒業後、東京に出て、事務職に就いた。当時はバブル期の終盤で、大量に輸入された食材はモノにように粗末に扱われ、残され、捨てられていた。こんな社会はおかしいんじゃないか?飽食を謳歌する消費社会に疑問を持った泉さんは、「自分は生産する側にいきたい」と、中野市の農家さんに嫁いだのだった。

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のろまん農場」では、除草剤は一切使用せず、減農薬・特別栽培をしている。また、果樹では難しいとされる無農薬栽培にも取り組んでいる。堆肥も自家製にこだわっている。農産物の安全性については、使用する農薬など、ある程度数値化して消費者に伝えることができるが、安心感は人の心が決めることなので数値化だけでは十分ではないと球太朗さんは考えている。そこを補完しているのが、「のろまん農場」に援農に訪れる学生たちの存在だ。

のろまん農場」では、球太朗さんが生まれた27年前から、桃の繁忙期を中心に、数多くの大学生ボランティアを積極的に受け入れてきた。これまでの受け入れ延べ人数は約1,000人を数える。毎年、夏の「のろまん農場」は若者たちのエネルギーで活気に満ち溢れ、賑やかになる。球太朗さんは子どものころ、夏休みが終わるといつも学力が上がっていたという。援農に来たお兄さん、お姉さんたちからマンツーマンで宿題を見てもらい、勉強を教わっていたのだ。こうして、田中家と援農大学生たちは家族のような人間関係を育んでいった。

最初は人手不足を解消することを目的にしていたが、援農受け入れは思わぬ効果を生み出していくことになる。入れ代わり立ち代わり都会の大学生たちが訪れ、田中家と一緒に収穫に汗を流し、寝食を共にする。言わば、常に外部の目に農場をさらしているオープン性が、田中家の生産物に安心感を生んでいたのだ。大学を卒業し、社会に出た後も毎年、彼らは桃を買ってくれるし、口コミで知人友人に桃の価値を伝えてくれるなど、強力な営業マンのような存在になっていった。援農大学生のOBGからなる「のろまん会」になるものも結成され、東京で定期的に同窓会も開催されている。

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球太朗さんの父、久一さんはこれまで何度も「のろまん会」OBGの結婚式に「長野のお父さん」として呼ばれてきた。農場で出会って交際を始め、結婚したOBGも何組もいる。社会人になって会社でつらいことがあると、農場にやってきてまた援農に汗を流し、杯を交わしながら悩みを吐露してくれる人もいる。両親の背中を見て育った球太朗さんは、単に農産物の生産だけでなく、生産活動を通じて人とのつながりを大切にしていきたいと考えている。誰でも気軽に訪れることができ、生産者と消費者の垣根を超えてみんなで心豊かに生きることができる世界を創り上げていける「共育ちのできる農場」を目指している。そして昨年生まれた長男の桃之助くんもまた、球太朗さん同様、多くのお兄ちゃんお姉ちゃんに囲まて、共育ちしていくのだろう。


 

Producer

 

 

田中球太朗 のろまん農場 | 長野県中野市

   

 『農』の『ロマン』 農業を通して多くの方に夢を与えられるように頑張ります!

年間約60品種の桃を栽培する変態桃農家です。標高2,000mを超える山々に囲まれた自然豊かな地域で、果樹農家を営んでおります。食べた方々の心からの「うまい!」を聞きたくて、桃のほかりんごや梨、米などを頑張って栽培しています。除草剤は一切使用せず、減農薬・特別栽培。また果樹では難しいと言われている無農薬栽培にも、一部取り組んでおります。堆肥も自家製です。

   
     


   
 

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