先日まで大時化で丸半月何もできなかった状態からようやく明けた、昨日の午前2時。
何としてもハタハタを獲りたいと他の船に先んじて沖に船を走らせる。
現場に到着しても落ち着かない。「今日は俺にハタハタ様は入ってくれるだろうか」「今日は俺だけダメなんじゃないか」いつも通りの不安がよぎる。
朝4時。全く眠気はない。
ようやく起きた眠気眼の乗組員を叱る。「集中しろ、馬鹿野郎!死ぬぞ。」言ってて焦っている自分に苛立つ。
網を掛け、まるで受験の発表を控えた高校生の気分のような、落ち着かない20分が過ぎる。
...
...
いつもより格段に船が軋む。「入った!」確信した。
「いいか。絶対に寝ぼけんじゃねぇぞ!集中しろ!」もう一回乗組員を叱咤する。
入った。しかもこれまでないほどに。体中からアドレナリンが出まくるのが分かる。自然にみんなが笑顔になる。
3時間かけてすべてを船に上げた...船満杯。本当に船満杯...
「どーすんだこれ??」
そこで気づいた。推定2000箱以上。今から帰っても、多分夜中までかかる量だ。しかも手伝い人はたった5人。刺し網漁解禁でいつもいるベテラン漁師や、男鹿でとんでもないスピードでハタハタを処理してくれるお母さんたちもいない。
「どーすんだこれ??」
獲ることばかりに意識がいって後先全く考えていなかった。頭の中が真っ白になった。
ダメで元々でFB、lineで送ってみた。朝8時。
「こんな時間に誰も来るわけねぇよな。」そう思って船長室から甲板に降りた。疲れで頭が働かない。麻酔に打たれたようなおかしな感覚のまま、全ての魚をとりあえず駕篭に処理して、帰港まで10分となったところで船長室に戻った。それでも正直、絶望的な量だった。
船長室に戻り、ふと電話を見た。期待はしていなかった。
凄まじい量のリプライ。着信20件以上。
「どこにいけばいいの?」「今着きました!待ってます!」「拡散します!」「今すぐ行きます!」
クラクラしていて現実かどうか分からなかったから、返信はしなかった。
8時50分。漁港に入港する。やっぱり人はいない。
「まぁ、そうだよな。」
魚を揚げ始める。うんざりする量を目の当たりにして、うんざりする今後の段取りを決める。
...と漁協の中から大人数の集団が...
総勢40人。入れ代わり立ち代わり6時間、このとんでもない量のハタハタを処理し始めた。ハタハタの駕篭詰め作業、選別作業、箱付け作業...私が何も言わなくても全てがスムーズに、目の前で行われていく。不思議な光景に思えた。
作業はすさまじいスピードで進んだ。
午後3時半。すべてが終わった...信じられなかった。周りの漁協職員、仲買業者も驚いていた。しかもみな素人。半数以上が初めての作業だった。
誰一人嫌な顔をしてる人はいない。皆笑顔で、しかも今日知り合ったばかりの二人が談笑している。私が知らない方も多数いた。
「次も会ったらまた頑張るべよ」私が知らないところで新しいコミュニティーがすでに生まれている。
本当に感動した。
本当に嬉しかった。
久しぶりに涙が止まらなかった。
ありがとう。
朝から自分本位でばかり物事を考えていた自分を恥じた。
廃れ行く農村、漁村文化、というのをよく耳にする。人口減少や産業スタイルの変化など、程なくして消滅する運命と散々言われている。
だがどうだろう。
これから先、こういった流れが出来れば、今以上の文化は受け継がれていくのではないだろうか?
「人は石垣、人は城、人は堀」
そこに人がいる限り、可能性は無限。
そこに人がいる限り、これからも全て、受け継がれていく。
私はこれからもそんな「人」として生きていきたい。