台風で傷ついた野菜の行方は?廃棄か、安売りか。揺れ動く農家さんの苦悩と本音

今夏、私たちの食卓やメディアを騒がせた「野菜の高騰」。その謎と、農家さんの本音や実態に迫った記事に多くの反響をいただきました(その際の記事はこちら→【えっ?意外…】農産物の高騰 農家さんに聞いた真相

私たちが日々触れる情報の中に、生産現場の声を拾い上げたものはどれくらいあるでしょうか。「いや、どうやらほとんどないのでは・・・?」。そんな疑問から、今回は台風被害が生産現場にどんな影響をもたらすのか、農家さんにインタビューしました。

マスコミのニュースからこぼれ落ちる、農家さんの言いづらい本音と、私たち消費者に少しでも知ってほしいこととは・・・?


台風被害は農産物だけに限らない

「野菜高騰で庶民の家計に打撃!」

自然災害などで野菜の小売価格高騰が生じると、多くのメディアはスーパーの野菜売場にカメラを向け、決まり文句のようにこう報じます。2017年9月中旬に日本列島を襲った台風18号のときも、そうでした。その裏側で、生産現場はどんな苦労を抱えているのでしょうか?

今回協力してくれたのは、岩手県一関市でナスやトマト、お米などを栽培しているスッチャンファームの佐藤勧さん。佐藤さんの畑も、台風18号で大きな被害を受けました。自慢のナスに、大量の傷がついてしまったんです。


ーー今回の台風18号で、どんな被害に?

立派に育った大量のナスにがつき、通常通り出荷できなくなりました。しかも、8月の長雨の影響で遅れていた出荷のピークがいよいよやってくる。そんな矢先の台風だったんです。枝が折れ、実が落ち、経営的にも大打撃です。僕の心も、へし折られました・・・。

台風被害で傷がついてしまったナス。皮を剥けば、中身は真っ白で美味しいのに・・・


ーー自然には抗いようがないから、もどかしいですね。

それでも、事前に対策はするんですよ。熟す前の小さいサイズでも一定量を収穫したり、風雨に耐えられるように木や枝を補強したり・・・。でも、限られた時間の中では、限界があるんです。


ーー多くの農家さんが、同じような被害を受けているんでしょうね。

僕は、きっとマシな方ですよ。1年かけて準備してきたリンゴの8割が出荷できず、なんてこともありますからね。僕の周りの農家では、農園の支柱も倒れたせいで新たに購入しないといけない人も少なくありません。被害はなにも農作物だけに限らず、農園の施設・設備などにも及ぶんです。


傷がついた出荷できないナスの行方は・・・

農産物が出荷できないーー。それは収入が減り、経営が大きな打撃を受けることを意味します。なにより、愛情込めて育てた”我が子”のような農産物が、廃棄の危機に直面することになるんです。こんなとき、農家さんはどうしているのでしょうか・・・?


ーー出荷できなくなった農産物は、どうするんですか?

一般的には、やむを得ず廃棄するか、加工品にするか、あるいは規格外品として安売りするか。僕は該当しませんが、農協を通す場合は1cm以上の傷がつくと規格外品扱いになります。今回の台風でも、周りの畑で山のように廃棄されている光景を目にしましたよ。


ーー佐藤さんのナスはどうされたんですか?

この台風以前にも、傷がついてしまった一部のナスは加工品にしたり、飼っているニワトリの餌に使ったりしています。ただ、台風のような自然災害がドカンと来ると、それだけでは賄いきれません。やむを得ず、毎日100本近く廃棄していました。皮を剥けば中身は真っ白で、美味しいのに・・・


ーー廃棄以外の選択は・・・

実は、そのことを地元にある和食カフェ「まんまるや」さんのオーナーに相談したところ、そのお店でナスの詰め放題(100円)をやってくれることになったんです。

一関市花泉町の古民家カフェ「まんまるや」


ーーそれは、ありがたいですね!

そしたらすごい反響で、地元の人も買いに来てくれたり、そのことを知った東京のお客様からも「まだ残っていれば送ってください」と知らせが届いたり。「捨てるのはもったいない」。そう思ってくれる仲間やお客様が、実はたくさんいるんだなあと。本当に感謝しています。

急遽、地元のカフェ「まんまるや」で実施したナスの詰め放題。思わぬ反響に驚いたといいます。


ーー規格外品を売ることについては、葛藤はあるんですか?

売っていいのか、お金をもらっていいのか、でも捨てるのはなあ・・・。生産者としては、形のいい、つやっつやのナスを届ける使命があります。お客様にお金を出してもらってまで、出してはいけない。そういうプライドがあるんですね。

ツヤツヤのナス、本来届けるべきはこういうもの


ーープライドですか・・・

一方で、せっかく育ってくれたものを捨てるのはかわいそう。この狭間で、常に気持ちが揺れ動くんです。「まんまるや」さんの詰め放題イベントも、出すことへのためらいと感謝と・・・その自問自答でした。


ーー安売りばかりだと、値崩れも心配ですよね。

その通りです。野菜は本来、生産原価に利益を乗せたものが正規価格です。今、すでにその価格がどんどん崩れているのに、規格外品の安売りをすることでますます値崩れが進んでしまうんじゃないか。だから、余計にあまり出したくはないんですよね・・・


農家も胸を張って、堂々と伝えるべき 

できれば売りたくはない、でも捨てるのはもったいない。佐藤さんは、こんな心の葛藤を抱えていたんですね・・・そんな農家さんたちと、私たち消費者の”心の距離”を縮めるには、どうすればいいんでしょうか?佐藤さんは、生産者側ももっと声を上げるべきだと訴えます。


ーー廃棄か安売りか・・・農家さんの”葛藤”は消費者に伝わってますかね?

いや、残念ながら知らない人が多いでしょうね。品薄で野菜が高騰したときに、ニュースで取り上げられるのは「家計に響く」という消費者の声ばかり。その影で泣いている農家の思いも、もっと汲み取ってほしいですよね。


ーーどうすればいいでしょうか・・・

大量の廃棄が出て収量が落ちたときに、なぜ値段が上がったのか。私たち農家も、もっと声を大にして、お客様に伝える努力が必要だと思います。


ーー農家さんが伝える努力とは?

みんなプライドを持って農産物を育てているんだから、胸を張って、顔を上げて、「だからこの値段なんです」って堂々と言いましょうよ。僕は関係者の会合などで、いつもこう言ってるんです。だって、僕ら生産者は「食」や「命」の礎を築いてるんですよ?なのに、特に日本は生産者の地位が低すぎませんか?


ーー実際、どうやって伝えればいいでしょう?

僕個人は、対面販売にこだわっています。地元や仙台市などのマルシェに積極的に出店して、顔を突き合わせて「こういう理由なんだ」と会話する。地道な作業ですが、思いや情熱が最も伝わりやすいのは、やっぱり対面だと思います。

息子さんと一緒にマルシェで販売


ーー生産者自身が消費者に会いに行く・・・その逆はどうですか?

もちろん、消費者が生産現場に来て、農業という産業を体感したくなるように働きかけることも重要だと思います。「どうすれば来てもらえるか」を考えると、農業や街の魅力を高める努力も必要です。やるべきことはたくさんあります。


ーー消費者が「来る理由」を作るということですね。

僕は地方こそ、お宝満載な場所だと思います。自分の住んでいる一関市花泉町に誇りを持ち、地元の産業に携わることにより、住みよい街にしていきたいんです。


農家さんの本音を、消費者に届ける仲介役

もちろん、農家さんの努力だけに頼るわけにはいきません。本来なら、私たち消費者こそ、農家さんの本音や価格高騰の裏側にそっと近づき、寄り添う必要があるのではないでしょうか?


ーー消費者は、どうすれば農家さんの思いに近づけるでしょうか?

例えば、今はSNSなどで積極的に情報発信する農家も増えてますから、そういう情報にアクセスすること。僕の場合はあまりネガティブな情報は載せないようにしているので、気軽に電話ください。そしてぜひ直接足を運んで、体験してみてください。そう伝えたいですね。

取材当時は稲刈り真っ最中。この広大な田んぼで育ったお米がおいしくないわけがない


ーーそれでも、やっぱり”本音”は伝えづらいんでしょうか?

心を閉ざしている生産者は多いと思いますよ。特に今年は、サンマが記録的不漁だったり、各地で豪雨被害も相次ぎました。経営に苦しんでいる人は多いはず。でも、規格外品をはじめ見た目も中身も”納得の品質”を食べてほしい。だから「来年なんとか頑張ります」とお茶を濁しちゃうんですね。


ーーなんとか、うまく農家さんの声を拾えないものでしょうか・・・

メディアもそうですし、ポケマルのようなサービスの存在は大きいはずです。お客様には直接言いづらくても、仲介してくれる人になら少しは本音を言いやすいと思います。生産者とお客様の間に入って、僕らの心の扉をガチャっと開けて、本音を拾ってくれれば、そこからお客様に実情が伝わるようになるかもしれません。


ーーポケマルは責任重大ですね!そして、今このときも、同様の葛藤を抱えて苦しんでいる農家・漁師さんはたくさんいらっしゃるのでしょうね・・・。

僕たち生産者は、どのようにしたらもっと美味しく、たくさん収穫できるのかを、大地と向き合って常に試行錯誤しています。だから、下を向いている暇はないんです。農業は他の産業よりも少し時間がかかるかもしれませんが、同じように絶対に利益が出る産業です。子どもたちをはじめ、多くの人に魅力ある産業だということを、背中を通じて教えてあげたい。だから、僕はこれからも食べてもらいたい人、家族、そして自分のために顔晴ります!


気象庁によると、近年は”50年や100年に一度”と呼ばれる規模の大雨が増えている*そうです。台風に限らず、思えば自然災害や異常気象を目の当たりにする機会が増えているように感じませんか?つまり、記録的不作・不漁や大量廃棄、規格外品の安売り・・・こうした事象も、今後さらに増えるかもしれません。

「家計に打撃」。私たち消費者にとって、それは重要な関心事であることは事実です。でも、それ以上に生産者さんの心は傷つき、経営にも深刻な影響をもたらしているかもしれない・・・。ニュースを目にしたとき、店頭で値札を眺めるとき、これからは生産現場の人たちの気持ちにも思いを巡らせてみませんか?


*気象庁ホームページ 異常気象リスクマップ http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/riskmap/heavyrain.html


ライタープロフィール

近藤快

化粧品専門誌の記者として8年勤務。東日本大震災後、業界紙・東北復興新聞にプロボノで参加、その後専属に。他に、企業のCSR・CSV、一次産業、地方創生などのテーマで取材〜執筆している。