菜花農家さんに旬閉幕後インタビュー。おいしさの理由、来期の秘策…愛情いっぱい菜花ばなしを味わってね

「菜花」という食材について、あなたはどのくらい知っていますか?

今、あなたの脳に浮かんだ「菜花」のイメージは、スーパーでプラスチックバックに納まっていた緑色の野菜かもしれないし、畑や河川敷で風に揺れていた黄色い野花かもしれません。

しかし菜花には、世間にあまり知られていない姿もあります。もしかすると、これから始まるお話の中に、図鑑にすら書かれていなかった情報が見つかる……かもしれません。

語り手は、千葉県南房総市の菜花農家:宮越敬二さん・加奈さんご夫妻。2020年度の菜花シーズンが一段落した2021年3月半ばに、ご夫婦揃ってお話を聞かせてくれました。

菜花の育て親の目線で語られるお話からは、菜花の種類や食べ方はもちろん、菜花の手触りや菜花畑の香りまでもが伝わってくるようでした。読み終わったら、次の旬が始まる11月が、きっと今よりもっと楽しみになることでしょう😊

それでは。菜花農家さんの菜花ばなし、始まり、はじまり。

目次

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菜花の柔らかさに魅せられたふたり

みやこし農園|千葉県南房総市

千葉県の最南端、南房総市にて夫婦で農業を営んでおります。昆虫と動物好きな二人の息子がおり、週末の畑はとてもにぎやかです。新鮮な野菜で食卓が明るくなり、皆さまが笑顔になってもらえるよう努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

Q. お二人はいつ頃から南房総で菜花を作り始めたのでしょうか?


私たちは移住組でして、以前は石川県の農業法人で働いていました。南房総市には2017年11月に就農のために引っ越してきました。2人とも出身が関東なので、独立就農するなら実家から近いところがいいかなと

写真:菜花畑の中の宮越さん(左=加奈さん、右=敬二さん)

就農場所が定まっていなかったので、何を作って生活するか、カチッと固めてはいなかったんです。実を言うと、ここに引っ越して来るまで菜花を見たこともなくて。畑や田んぼに植わってはいても、観賞用の花なのか何なのか…って

それまでは菜花を食べることもあまりありませんでした

1年目は試行錯誤でやっていたのですが、栽培品目を増やしすぎると効率が悪くて、あまり良いものが作れなかったんです。2年目になって、周囲の人から勧められて菜花の栽培をはじめました
決定的だったのは、近所の農家さんから「食べてみますか」と渡された菜花が、あまりにも美味しかったんです。これが菜花栽培を始める大きなきっかけになりました

南房総は菜花の一大生産地なので、地域のサポート体制や農協さんのバックアップもしっかりしているんです。春は真っ黄色の菜の花畑がすごくきれいですよ。収穫が終わった食用菜花が花を咲かせている畑もあれば、切り花用の菜花畑もあるみたいです。購入してくださった人の中にも「今年はコロナで菜花摘みに行けなくて…」と教えてくれた方がいました

画像:ももすけさんからのごちそうさま投稿

菜花ってマニアックだから売れないんじゃないかな、と思いつつポケマルを始めましたが、想像以上に反響がありました

「菜花が好きなんです」と、菜花を求めて買ってくれる人がいるんだって、うれしかったです

「束菜花」と「袋菜花」の違いとは?

写真:菜花の調整作業中

Q. 宮越さんが育てているのは、どんな菜花ですか?


「菜花」というと、一般に入手しやすいのは、10cmくらいの長さで紙で束ねてある「束菜花(たばなばな)と呼ばれるものですが、私たちが今作っている品種はものすごく束ねづらいので、束ではなく「袋菜花(ふくろなばな)として出荷しています

束菜花と袋菜花(画:なかゞわ)

市場で仲買人さんたちは、花蕾の大きさや色艶と一束の本数などを見るので、束菜花にする時は花蕾を全部出して紙で巻きます。蕾の締まりが良く、色合いが濃く、花蕾(からい)まわりの止め葉(とめば)が小さい方が「束菜花」の調整作業に向いている品種だと聞いています

※花蕾(からい)=花やつぼみのこと。花蕾を食する野菜には、菜花の他にブロッコリーやカリフラワーなどがある。

一方、色合いが淡く、花蕾まわりの止め葉が大きくて「束菜花」の調整作業に向いていないけれど、食べて柔らかく苦みが少ない品種私たちは「袋菜花」や「パック菜花」として出荷しています

南房総に来て2年目の時、近所の方にいただいて初めて「おいしい」と思ったのは、この、束菜花に向かない方の品種だったんです

菜花をくれた方々は業務用の柔らかい品種を使っていました。私たちもそれを真似して品種を選び、束ねずに袋かパックかに詰めて出荷しています。袋菜花は束菜花よりもサイズが大きく、太さが親指くらいで、品種の向き不向きがありません。今は4品種くらいの菜花を栽培しています

菜花の品種にはどんなものがある?

Q. 品種は荷姿とも関連性があるのですね。食味の面ではいかがでしょうか?


品種によって食感も違います。「サカタ88」という品種は、今作っている中で一番柔らかいんです。でも、色がとても薄く黄色っぽくて……

薄いというか、淡いのかな。肥切れ(こえぎれ)を起こすと極端に黄色くなってきてしまうので、作るのが難しい品種です

※肥切れ=肥料が足りず作物の生育が悪くなること

花蕾が黄色く見えてしまうと、花が咲きそうに思われてしまうおそれもあります。でも、柔らかくて苦味が少ない菜花の美味しさを知っていただきたいと思って作っています

「サカタ88」よりも少し早めに収穫できる「栄華(えいか)という品種は、葉がふわふわっとしていて、1本1本が軽め。花蕾の上に葉っぱがちょこちょこ上がってきてしまうので、これまた束菜花には向きません。しかし、蕾の色が濃くて、食べると全く苦くないし、非常に柔らかくて作りやすい品種です

写真:11月上旬、収穫開始の頃の菜花(みやこし農園のインスタグラムより引用)

「栄華」の旬は11月中旬頃から年末くらいまで、「サカタ88」は12月末頃から2月くらいまで出荷予定です。さらに晩生(おくて)「花まつり」という品種もあって、順調にいけば桃の節句あたりまでは出荷できる予定です。
2020年度は12月に雨が極端に降らず、あまり良いものができなくて……ポケマルでの販売は早めに切り上げてしまったんです

画像:雨が少なかった2020年12月、人力で水を撒くも…(みやこし農園のインスタグラムより引用) 

「来季は"頂花蕾"を売ってみたいんです」

一番はじめに伸びてくる、一番太い花蕾のことを「頂花蕾(ちょうからい)と呼びます。一般に出荷される菜花のほとんどは、頂花蕾を摘みとった後に下の葉の付け根から伸びてくる側枝(そくし)です

頂花蕾はものすごく太いんですけど、柔らかいんです。菜花をよくご存知の方でも、食べたことはあまり無いと思うんです。なので、ぜひポケマルで売ってみたいんです。きっと驚くと思うんです

写真:商品ページ1枚目の写真は頂花蕾だったそう

普通の袋菜花は規格は150gで、側枝がだいたい6〜8本くらい入ります。一方、頂花蕾だけを同じ袋に詰めると4本でもうパンパンになります

頂花蕾は非常に柔らかくて食べ応えがあるのですが、収穫できる大きさになる前に摘んでしまう農家も多いんです。側枝と違い1株から1本しかとれないので、非常に数が少ないんですよ

頂花蕾が採れるのは、「栄華」だったら11月上旬くらいで、「サカタ88」だったら12月中旬くらいですね

菜花の茹で時間は1分半を目安に

画像:かっちんさんからのごちそうさま投稿。柔らかい菜花は茹で時間の見極めが重要なのだ

Q. 茎が太くて葉が薄い菜花は、加熱時間が難しい印象があります。美味しく食べられるゆで加減教えてください。


頂花蕾の場合は茎がものすごくゴツいので、茹で時間は普通より30秒くらい長くした方が良いのかな。かといって茹で過ぎるとグニャグニャになってしまうので、食べ方のご案内はしっかり入れておこうと思っています

一般的な菜花は、太さにもよりますが、1分半ぐらいを目安に硬さをみてお好みで仕上げてください

菜花の頭を持って、下半分の茎をお湯に入れてからパッと離すと、上の方の葉や花蕾がクタクタになりません

私は毎日のことなので、包丁で半分に切り、上と下を順番に茹でています。先に茎を湯に入れて1分くらい茹でて、最後に葉を入れます。茹であがったら冷水に浸し、水を切ります
でも、適切な茹で時間を決めるのは太さだけではないんです。雨が降った後の菜花は柔らかくて、いつもより短時間で済むし、雨が全く降らない時の菜花は固かったりするので……

柔らかい時に収穫した菜花の方が、苦味が少なくて美味しいよね

菜花は、一本一本、手で採っています。IT化が進む時代に、毎日毎日、一本ずつ。採っていると、その日によっても、畑によっても、菜花の硬さが違うのがわかるんです。今日は昨日より硬いとか、柔らかいっていうのがすごくわかるので、それで状況を見極めて、ね

毎日やってるとわかってくるんです。たとえば、「サカタ88」って品種は、少しでも色が冷めてくると、すぐ硬くなるんです。作りづらいんですけど、肥切れが露骨に色に出るので非常に分かりやすいというか

菜花は世話が焼けるけれど…

写真:2021年3月上旬の菜花畑(みやこし農園のインスタグラムより引用)

Q. 手をかければ、触ってわかるくらい、結果が現れる。作り手から見て、菜花ってすごく「かわいい」のではないかなと感じました。


ああ〜

ああ〜

そうですね

世話が焼けるだけにおもしろいというのは、ありますね

先に話題に出た頂花蕾を、私たちは「親」と呼んでいます。頂花蕾を採りおわったら、次は側枝が伸びてきます。だから側枝は「子供」。それを採りおわったらまた次の側枝がでてきて「孫」になるんです。管理によって「孫」は細くもなるし、太くもなる。親の代から孫の代まで、見ていますからね

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企画・取材・文・画=中川葵

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