「それでも国産食べますか?」

母ちゃんの記事の補足です。

農業には「直接支払い」という補助金があります。これも要件落ちでもらってませんが・・・

農政を考えるにあたり、農業には食べもの生産というあたりまえの役割以外に「農村・農地を維持している、それ自体に価値がある」という考え方があります。 農地自体に災害の予防機能があったり、安全保障上の機能だったり、最近では癒やしだとか老後など福祉の受け皿だったりとかさまざまで、多面的機能なんて呼 ばれます。

とても大事な機能(ってことに建前上なっており)農業・農村の活動を継続するためにいろんは助成金が用意されてます。産業を維持、振興するための補助金や国の予算はべつに珍しくないけど、他産業から見ればどうしても馴染めないのがこの「直接支払い」です。

今回の話の元ネタとなった記事

(農業新聞7月3日)

ひらたく言うとこんな感じです。
きちんと真面目に働いて生産物を作って、売っても利益は(というか自分の給料も)出ない。でも農業・農村は大切なので、農業者が再生産するためのお金を国が直接払いましょう。っていう補助金です。
国民一人あたり米だけで4020円の負担。ちなみに、この制度のお手本になったEUでは一人あたり1万4000円になるそうです。

「材料仕入れて、作って、売ったら儲けませんでした。困るのでお金ください。」
なんてまずあり得ない話ですよ!
他にも、新規参入するなら150万×5年間、研修期間も同額2年間とか、もうありとあらゆる優遇措置があります。

だけど、こういう「農業優遇」制度に反対の立場ではありません。恩恵は得てませんが。(しつこいですけど、もらえるならうちも欲しいんです!!)
助成金は農家やってることの「ご褒美」では無いし、これだけ生産費とかけ離れた価格で食べものを買っている消費者の方が実はよほど恩恵を受けていると思ってます。

たとえば小麦。
100円で売って700円の助成金が直接支払いだけで農家に入ってきます。もちろん直接支払い以外にもいろいろ利用してるわけです。これは農家側から見た話。

逆に、国産小麦のパンを100円で買った消費者。(「やっぱ国産はちょっと高いよね」とか内心思いつつ)
もし農家が直接支払いを貰わずに割に合う価格=800円で卸した小麦で作ったパンだとしたら、いったいいくらのパンになるの?

麦・大豆はまだいい。
飼料用米!!700円で売って、8000円もらえる!!
消費者的には、「こだわりの国産飼料で育てました」の肉とか卵もたくさん食べなきゃ損です!!

農家いいなあって思うかもしれませんが、こっちから見れば「ニッポン大丈夫か??」って話なんです!
大変失礼な話ですが、いまの日本の食はとても貧しい状況だと思います。莫大な補助金がなければ、自国の食べものを普通に買うことができるのはごく一部のセレブだけだと思います。

もちろんその補助金の出どころも消費者の財布には変わりないです。
だけど、助成金もなくなり、農業という生産性の低い産業は切られ、一般市民は合成肉とか3Dプリンタで作った野菜とサプリでごまかす時代が来るんでしょうか。痛み分けをしていただいている状況の方がまだましだと思います。

生産性にあった「適正価格」売ればいい。という意見もあります。
これからは農家もきちんと商売する時代だ、的な。
竹林畑はどちらかと言えば、そちら側の農家。だけどこの意見には賛同できません。

竹林畑では、わが家が暮らしていける価格、コストに見合った価格で売って、補助金にも頼らない状況を目指しています。
が、その状況とは「うちの経営」のことではなく「社会」のことだと捉えています。

先に書いたように、割に合う価格でやればセレブに特化した商売になります。目指せ8倍の価格!
そうすれば『うちの経営』はうまくまわりそうです。(もちろんそんな技量はないけど)
だけど竹林畑が野菜を通してお届けしたい「食の豊かさ」とはお金持ちが専有するものじゃないはずです。

適正価格で売れない農家と適正価格で買えない消費者。そんな両者がおりなすお金持ちごっこ社会では、他の産業とのバランスをとるために、食べものも国際水準の価格でやり取りしなきゃなりません。
紹介している表のもう一つのポイントはフランスとの経営費の比較です。単純な比較はできないけど、日本の麦・大豆の4分の1とかしかかかっていません。あ ちらでは、コンバインで収穫なんていう牧歌的な感じではなく、工場が動きながら収穫してるような大型機械があったりします。

ゴジラ対ニンゲンぐらい勝負にならないんです。

「それでも国産食べますか?」と問いたい。
「う〜ん、無理!自由貿易の波に乗っかって、食べものは海外にまかしちゃえ。工業とか他の産業で暮らしていこう」ってのも一つの選択だと思います。儲けとか経済とかで考えれば、それがまったくの正しい方法らしく見えます。

いま、日本の農家は「それでもあんたの野菜食べたいです。お願いします」と言われるようなスゴイものを作らなきゃならない状況にあります。品質ももちろんですが、いまのうちらに訴えられることはむしろ「気持ち」です。

社会は政治とか経済とかだけじゃなく、気持ちという要素も含んでると思います。わが家の食事の楽しい気持ちをもっとシェアしたい、そしてこんな農家の気持ちも伝えたい。
「そんな農家みたいな食事をしてみたい、失いたくない」。そう思ってもらえる方が増えれば、少し社会は動くかもしれないじゃないですか。
これはうちの大事な仕事なのです。

(2016.7.5)

Writer

大分県由布市

竹林諭一

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