相馬ミルキーエッグ【選べるパック数】
1,230〜
10個入り×1パック〜
- 菊地将兵
福島県相馬市
震災後、僕は相馬で農家になった:菊地将兵(農家・福島県相馬市)
公開日:2015.12.03.更新日:2020.08.19.
僕の生まれ育った古里は、福島県相馬市だった。
東日本大震災後の2ヶ月後、僕は古里に戻り一から農家になると決めた。
「自分ならやれると思った」
「誰かがやらなくちゃいけない」
農家の跡取りでもない僕は、当時26歳という若さと勢いでそんな言葉を吐いて、無理やり自分で自分の背中を押していた。
それでもいざ始めてみると、当然のごとく現実は厳しかった。
道ばたでも、お店でも、友達と酒を呑むにしても、数人が集まればみんなが口を揃えるように放射能の話を始めるのが普通の日々。
放射能の話が始まれば、決まって農作物の放射能問題の話にまでなる。
震災後の数ヶ月は作物の放射能を気軽に測るような装置は身近になく、みんな福島の作物を食べたがらなかった。
最近になってようやくどの直売所でも機械を導入し気軽に測れるようになり、ずいぶん不安は解消されたと思う。
でも最初の頃は野菜を放射能測定するにも、1センチに切って1キロ用意してくださいと言われ、切って測った物は売ることもできずに悔しい思いを何度も何度も繰り返してた。
どんな野菜でも1キロである。
ようやく収穫できた野菜を、一枚の畑につき1キロは刻まれて検査のためだけに使われるのだ。
シソの葉などの軽いものを測ろうとしたときは、1キロ集められなくて諦めたこともあった。
放射能が検出されなくても、この刻まれて売り物にならなくなる野菜を持って帰る日々が2年以上続いた。
しかも、この放射能を測るために刻まれていく1キロの野菜は東電から今も賠償してもらってはいない。
正確に言えば、正式な所で検査したやつは賠償してもらえるし、地域の直売所で測ったデータでも裁判をすれば賠償してもらえるだろうが、みんなそこまでの手間をかけれなくて泣き寝入りしているのが現実だ。
そもそも、原発の問題が起きたあと、風評により売り上げが下がった農家はその下がった分を震災前の前年度と比較して賠償してもらっていた。
つまり、実質手元に入るお金は震災前と変わっていない。
問題なのは、僕ら震災後に始めた若手だった。
東電の賠償センターまで問い合わせたが、震災後に始めた場合は風評により売り上げが下がったという前年度の比較ができず、賠償外とされてしまったのだ。
いわゆる自己責任である。
毎日毎日、畑でとれた野菜をスーパーの地元生産者のコーナーに並べに行き、店の店員からは他県のより2割以上安くしないと福島県のは売れ残るよと言われ、実際に他県のと同じ値段にしてみると次の日に大量の売れ残りを見たことは一度や二度ではなかった。
これでも自己責任である。
震災後の1年目や2年目は、直接お客さんから放射能と言われることもたびたびあった。
何よりも辛かったのは、仲のよかった地元の友達たちが、僕の育てた野菜を嫌がったことだった。
小さな子供がいるからと、福島の野菜を買わないように思う友達は何も悪くない。
それは覚悟していたのに、いらないと言われてわかっていても辛かった。
今現在は放射能検査の機械も性能がよくなり、切り刻まなくても測れるようになったし、ずいぶんまわりの人たちも福島県の野菜を買ってくれるようになった。
僕の友達たちも、僕の野菜を買ってるよと言ってくれて本当に嬉しかった。
ここまでくるのに、4年かかった。
小さな子供がいる家庭の人たちが、ただ福島県の野菜を買うという行為が普通になるまでに4年である。
実際には、いまだに食べさせないという人たちもかなりいるが、しっかり僕らのことをわかってくれ、この生産者ならと買ってくれるようになった人たちも大勢いるから僕は嬉しい。
もうすぐ東日本大震災から5年を迎えるけれど、僕の知る限り震災後にここ相馬市で一から農家になった人は見ない。
いても跡取りがあとを継いだという話がほとんどで、親が引退するからあとを継がせるんであって、それでは1プラスになって1マイナスだから意味がない。
まったくの一からでも、ここ福島県相馬市で農家になれる流れを作ってあげないと、やがてこの町から農家はいなくなると思う。
まだまだ僕自身、まともに生活も成り立たせられない農家ではあるけれど、この町で生まれ育ったことを誇りに思い感謝しているからなんとかしたい。
「相馬」
という地名は全国でも悪い印象で有名になってしまったけれど、僕ら相馬市の農家は必ず相馬をもう一度全国に良い印象で発信する。
農家という職業がこの土地で誇りあるものになったら、次の世代も必ず誕生すると信じてます。
おそらく一生涯、放射能検査は受け続けると思うし、これからも多くの困難が相馬にはあると思う。
でも必ず諦めないから、どうかこれからも相馬を宜しくお願い致します。