牛乳を買うより山羊を飼う

牛乳を買わなくなってから数ヶ月が過ぎました。

数ヶ月前のわが家では子供たちが毎日牛乳を飲んでおり、一緒にスーパーマーケットに買い物に行くと牛乳を買ってほしいと僕にお願いするほど子供たちは牛乳が好きでした。

買うとしてもせいぜい1リットル二百円程度の牛乳ですが、毎日子供たちが飲んでいる姿を見ていて、これからを考えわが家で選んだ答えは「山羊」を飼い「山羊乳を飲む」ということでした。

元々僕の生まれ育った地域では、四十年以上前までは各家庭に山羊がいることが当たり前で、今でも近所のおばあちゃん達と話すとほとんどの人が山羊の乳を搾った話を教えてくれるほど、田舎では山羊がいることも乳搾りをする事も当たり前の光景だったそうです。

「牛乳」というものが簡単に手に入らなかった時代の話です。

時代は変わり現代になり、牛乳というものがわずか二百円足らずで1リットルも買えてしまう時代になってしまいました。

そうなると当然、山羊を飼う必要がほとんど無くなってしまいます。

山羊は牛の十分の一程度しか搾っても乳が出ません。

それを「貴重」と捉えるかどうかと考えたときに、多くの人が山羊を飼うより牛乳を買うと考えたと思います。

実際に僕が山羊を飼う時、昔飼っていた祖父母は猛反対しました。

飼うことの意味がないと言うのです。

確かに牛乳の値段や山羊を飼うことの手間を考えたらそうかもしれません。

それでも、子供たちに『スーパーマーケットに紙パックで売ってる冷たい飲み物が牛乳』なんだとは教えたくなかったのです。

普段飲んでる物は動物のお乳なんだということ。

冷たくなんてなくて本当は温かいんだということ。

これは貴重なんだということを、ちゃんと教えてあげたかったのです。

それから山羊の乳搾りがわが家で始まり数ヶ月、毎日2リットルも搾れて飲みきれないよと笑いながらチーズやアイスも作り、ノルマのように飲んだりもしてましたが、徐々に徐々に乳の出る量も減り、今では1リットル以下になってしまいました。

だいたい人間というのはいつでも足りなくなってからありがたみに気がつくものです。

僕も例外ではなく、搾っても乳の出てくる量が少なくなってきた山羊を見つめながら、母乳なのだから出る量が数ヶ月で減っていくのは当然であり、自分の子ではなく人間の子供たちに母乳を分けてくれていたことにもっともっと感謝してもいいんじゃないかと思えて、山羊の背中をさすりながらありがとうと何度も自然に言葉が出ていました。

これは一年中あるものなんかじゃなく、動物たちが妊娠して、出産して、その子を育てるために出す母乳なんです。

僕は僕自身も含めて、これからも子供たちにちゃんと現場を見せながらそう教えていきたい。

2017.8.3

Writer

福島県相馬市

菊地陽子

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