生産者を超えて、交換者へ。

魚を買うという行為がほとんど無くなりました。

僕はニワトリや野菜を育てる農家ですが、月に二度、浜配達という海側の方に住む人達にその時ある野菜や卵を配達しています。

僕の暮らす福島県相馬市は海と山があり、僕は山側の人間です。
震災前までは海側は浜の人達、山側は山の人達と区別して話すこともあり、学生の頃などは「海側の奴等と町や山側の奴等」なんて図式でケンカすることもあるくらいでした。
実際、小さな田舎町なのに浜の人達と山の人達では言葉の訛りも違うほどで、なかなか海と山が繋がるようなことも少なかったと思います。

そんなこの田舎町で、震災後から少しずつ変化が生まれてきています。

僕が毎月配達している浜の人達はまだ少ないものですが、それでも毎月必ず野菜や卵を持ってきてくれと言ってくれる人達が少しずつ増えていて、なかでも嬉しいのは『魚と交換してくれ』という言葉だったりします。

今までずっと社会にとらわれない生き方というものを考えていても、最後にたどり着くのは決まって『お金』であって、なんだかこの流れから脱け出せないことが物悲しいというか、悔しいというか、やりきれない気持ちがありました。

でもこの海側の人達に配達に行くと、魚と交換といった形で野菜と卵をもらってくれて、僕としても農家は魚を手に入れる手段がないから嬉しい限りで、海側の人達もあまり田畑をやっている人達がいないため、お互いがありがたいと思えるような流れが自然に出来上がってきています。

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僕はお金をもらうより、こうしたやり取りで暮らせることが嬉しいんです。

魚だけじゃなく物々交換の流れは少しずつ地域に広まり、土建屋の社長さんに砂利がほしいと頼んだら『その値段分の野菜や卵と交換でいい』と言ってくださったり、牛乳が飲みたいと思ったら近くの酪農家の家を訪ね卵と牛乳を交換してもらったり、果樹農家とは果物と卵を交換してもらっています。

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こんなお金を介さないやり取りがもっと当たり前になり、それで暮らしていけたら幸せなのになと思えて、他のどんな職業の人達とも同じように物々交換できるはずなのになと考えています。

なによりお金を介さないこのやり方の方が、僕にはお金で買ってた時よりその物の価値が高く思えてありがたいのです。

もちろん会うこともできないくらい離れていたり、その場面場面でお金で買うしか方法がない時もあります。

お金で暮らすことは最低限まで減らせますが完全に無くすことはできるはずもなく、買うことが悪いと言いたい訳ではないのですが、僕は僕の生き方の最後が見えた気がしています。

これからも僕は、物を問わず技術でもなんでも、物々交換してくれる人達ともっともっと繋がっていきたい。

物々交換で繋がった人達は自然と繋がりも強くなり、それが自然と田舎町に昔からあった結いに近い地域の結束を生み出すような気がして、それが古里を守る答えにも繋がっているような気がしています。

(2016.12.2)

Writer

福島県相馬市

菊地将兵

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