相馬の農業を“ゼロ”に戻せた日。相馬に産まれたことを誇りに思えた日

ようやくこの時を迎えることができました。

震災から五年以上が経ち、僕らはようやく相馬市の農業をゼロに戻せました。

あの日からずっとずっと、僕たち相馬市の農家は放射能という壁に大きく立ちはだかれ、どこに野菜を持っていくにも『放射能の野菜だろ』と言葉を投げ掛けられる日々でした。

震災から三年はその言葉を言われ続け、四年目以降も言われることは少なくなっても、他県の野菜と同じ値段、同じ品質なら他県のを買うといった人達も少なくなく、苦しい思いをしいられる歳月でした。

そのなかで僕らが相馬市で農家になり活動していくことはマイナスをゼロに戻す作業であり、まだスタート地点にも辿り着けていないといった気持ちが僕の中でありました。

それでも諦めずにやってこれたのは、心から自分の生まれ育った古里が好きだったこと、県内、県外を問わずいつも応援してくれた人達がいたこと、何よりも家族、子供たちがいてくれたことが大きく僕の背中を後押ししてくれました。

相馬市の農を次の子供たちに託すにはどうしたらいいか、一度壊された古里の自然をもう一度大切にするにはどうしたらいいか、これから相馬市の農産品をみんなにほしいと言ってもらえる日が来るにはどうしたらいいのか。

その答えの1つとして、相馬市にかつてあった相馬市だけの伝統野菜を、もう一度僕たちの手で復活させようと誓いました。

ここにしかない物なら、他県や他国と競い合う必要もない。

相馬市に来てくれたみんなに、胸はって『これが相馬の野菜です』って渡せる。

旅館や飲食店でも秋が来れば当たり前のように相馬市の伝統野菜が食べれるようになり、手土産としても相馬市の秋はこれだと選んでもらえるようになってほしい。

子供たちは植え付けから収穫まで畑に来てくれて、芋煮会までみんなでこの伝統野菜を使ってやるようになってほしい。

たったひとつの伝統野菜が、相馬市のあらゆる流れを変えるきっかけになってほしい。

数十年と表から姿を消していたこの伝統野菜が、今ようやく陽の目をみる場所に戻ることができました。

僕ら相馬市の農家と同じ、この伝統野菜もここからが始まりです。

相馬市の伝統野菜『相馬土垂(そうまどだれ)』。

初お披露目の場に集まってくれた県内、県外からの皆さんと共に収穫し、芋煮会まで開催することができました。

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『この日が最初だったんだ。』

数十年後のまだ見ぬ孫たちに語り継ぐ日が来てくれるまで、僕たちはこれから、もう二度と手離さないように大事に大事に守り抜きます。

集まってくれた皆一人一人の表情を見ながら芋煮会の汁をすすり、相馬土垂を口に運ぶたびに、やってきたことが何も間違いでなかったこと、そして、相馬に産まれたことを心から誇りに思えた日になりました。

来てくれたみんな、来れなくても関わってくれたみんな、応援してくれたみんな、そして古里の相馬に、ありがとうございました。

これからも宜しくお願いします。

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(2016.11.8)

Writer

福島県相馬市

菊地将兵

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